2013年12月10日(火) 指文字の文化 その3
色んな場で使われる指文字について、先月、当ブログに、下の2件の記事を投稿した。
指文字の文化 その1 (2013/11/14)
指文字の文化 その2 (2013/11/17)
その1では、市場の競りでの「手やり」や、日常生活で使われる指文字について、その2では、フグの「袋競り」での袋内部の手の形等について、触れている。
今回は、これらの続編で、手話での数字などの表現法、手を使った数字の2進デジタル表示等について述べている。
○ 手話での数字の表現法
最も体系化された指文字が、手話と言えるだろう。これまで触れて来た、0、1〜10程度までの簡単な数の表現を、手話の中では、どのように表示しているのか調べてみた。
ネット情報によれば、以下のように表示するようだ(ここでは、仮に表示Aとする)。
((3) 手話の指導 - 独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 より)
一方、下図の表示法(仮に 表示B)もあるようだ。参考まで、手やりの表示も示す。
(手話単語・『指文字と数字』長音他数字 より) 手やり
明記されてはいないのだが、一義的に示されている表示Aが、標準的な推奨方式で、表示Bに示されている、幾つかのバリエーションも許容されている、と考えることとする。何故か、ここのBには、Aにある0が含まれていない。
○手やりと手話での数字表現比較
次に、この手話での表示と、先稿で述べた、競りの手やりの表示とを比較してみよう。(指の略称 親:親指 人:人指し指 中:中指 薬:薬指 小:小指 )
数字の1〜4迄は、両者は同じであり、縦に伸ばした指の本数が数字に対応している。手話では、上述の表示Bにある様に、手の甲側を見せて、横にするオプションもあるようだ。
1 2 3 4 5
手やり 人 人+中 人+中+薬 人+中+薬+小 親+人+中+薬+小
手話 人 人+中 人+中+薬 人+中+薬+小 親
上にあるように、数字の5で、両者に違いが出て来る。手やりでは、5本の指を全て開いたパーが、5を意味する。
一方、手話では、掌側を見せながら、親だけ横に出す形を、5としているようだ。
6〜9を見てみよう。
手やりでは、親だけ立てて、掌を見せて手を横に出す形が6となっている。これは、手話の5を、90度回転した形と同じである。手やりでは、7,8では、人、中と順次開いていく。9は特殊形となる。
手話では、6〜9まで、人、中、薬、小と、順次開いていく。
両者を表で示すと、下のようになる。 (10については、調査不十分)
6 7 8 9 10
手やり 親 親+人 親+人+中 特殊形 グー?
手話 親+人 親+人+中 親+人+中+薬 親+人+中+薬+小 ?
親は、手やりでは6を、手話では5を意味していて、又、指の本数に、手やりと手話とで、上のように両者にずれがあり、ややこしい。同一人が、手やりと手話の双方をやるケースがある場合は、混乱しないのだろうか。
○ 手話での手の形の一般形
手話の数字表現の手の形(表示A、表示B)から敷衍して、一般形について、聊か考察して見たい。
手話では、手の形や動作等が、文字や言葉を伝える、限られた道具立て(手段 キャリア?)となるわけだが、手の形や動作で、以下の様な変化が考えられる。
先ず、
・手の5本の指の組み合わせ (折る、伸ばす で、25=32通り)
が最も基本となるものだろう。
さらに、以下のような要素によって、意味が変わるのか、変わらないのか、がある。
・右手か左手か(2通り)
・掌側か甲側か(2通り)
・縦上向きか縦下向きか(2通り)
・横左向きか横右向きか。(2通り)
更には、
・指や手を動かしたり、廻したり、手を斜めにする、
などもある。勿論のことだが、相手や聴衆から見て、紛らわしいものは使えない。
これらのすべてに意味を持たせ、それらを組み合わせた全体で、手話で使える道具立ての最大容量が決まるのだろう。
言うまでも無いが、手話では、これらの道具立てを使って、数字だけでなく、仮名文字の表現や、纏まった単語(今日、いってらっしゃい、自動車 など)の表現が行われることとなる。
興味本位に、手話で使われる五十音の指文字を見てみると、数字を表す指の形が、例えば、下の例のように、他の文字にも使われているようで、聊か、驚きである。 即ち、同じ道具を、異なる意味にも使っている訳で、どの様に使い分けるのであろうか。
数字の2 ←→かな文字の う
数字の3 ←→かな文字の わ
数字の4 ←→かな文字の け
数字の5 ←→かな文字の あ
数字の6 ←→かな文字の む
数字の9 ←→かな文字の く
又、同じ手の形でも、掌と甲、上と下、縦と横等のバリエーションは、下に示すように、他の意味に使われているようだ。(指文字50音)
数字の1の下左斜め →それ
数字の2の甲 →と
数字の2の横 →に
数字の3の甲下向き →ま
数字の3の甲横向き →み
数字の3の甲 →ゆ
数字の6の下向き →ふ
数字の6の掌縦 →れ
数字の7の掌縦 →る
数字の7の下向き →す
又、先の表示Bのように、一つの情報(数字)に、複数の表示(表現法)が使われる場合もあるようだ。同じ意味の単語等についても、色々な表示(表現法)があるのではないか。
以上を要約すれば、どの様に標準化がなされているか、と言うことである。
表示する情報と道具立てとの複雑多様な関係を体得して、これらの情報を、実時間で相手や聴衆に伝えていく、手話の大変さが慮られるところだ。
これらについて、これ以上深入りすることは止めにして、機会があれば、今後の調査テーマにしたいと思っている。
○ 手による2進デジタル表示
ネットを見ていたら、片手を使った指文字で、数字をデジタル的に表示するやり方が出ている。 5本の指を、下図のように、2進数の各位に対応させて、0、1で表示するものだ。(【石橋連載記事vol.5】両手でいくつまで数えられる?|数学はゲームだ! など)
指と2進数の位の対応 指文字による、0〜16迄の数の2進数表示
この2進数表示では、片手で最大31まで表示できることとなる(16+8+4+2+1=31)。
更に、両手を使えば、最大、32×32=1024まで表示できることとなる。
0〜31迄の主な数について、10進数、2進数で表示すると以下のようになる。
10進数 2進数
0 0
1 1
2 10
4 100
5 101
8 1000
10 1010
(15) 1111
(16) 10000
(31) 11111
このデジタル的な表示法は、道具を使わない、指だけを使った計数法として、実用的にはどのような意味があるかは分らない。が、指の運動や、頭の体操としては面白いかもしれない。
ここで、日常的に使っている、指折り数える方法を改めて見てみたい。
両手を使って、10本の指を、親指から順に一本ずつ指を折ったり(立てたり)していく方法は、10進数だが、0〜10しか表示できない。
片手で、5本の指を、親指から順に一本ずつ指を折っていく(立てていく)方法では、0〜5までしか表示出来ない(5進数)のだが、両手で、片方の手を桁上げに使えば、5×5=25(30)迄表示出来る事となる。
又、片手でも、例えば、0はパーで、1〜5は親指から折っていき、6以降は、親指から伸ばしていく方法を使えば、10まで、それぞれ、独立に表示できる。
この方法で、両手を使えば、10×10=100(110)まで表示できることとなる。