2016年3月16日(水) 高浜原発の運転差し止め
先日の3月9日、大津地裁で、高浜原発3、4号機の運転差し止めの仮処分の決定が行われたようで、大きなニュースとなった。
そして、これに対して、事業者の関西電力は、3月14日、大津地裁に対して、この仮処分の決定を不服とする申し立てを行ったようだ。
高浜原発の3号機については、この1月29日に、再稼働の燃料棒の制御が開始され、その後順調に作業が進められて、2/1から発・送電を開始し、2月下旬から、営業運転を行ってきている。
それが、今回の仮処分の決定を受けて、事業者の関電は、止むなくも、10日夕刻から稼働停止の作業に入り、当日中に原子炉は停止したようだ。約50日間だけ、原子炉内でウラン燃料の核分裂反応が行われたこととなる。 稼働中の原発が、司法の決定で停止されるのは、初めてのことである。
一方、4号機についても、2月下旬から再稼働の準備が進められ、冷却水漏れなどのトラブルもあったが、原子炉も稼働して、2月29日、発電用タービンを接続したところで不具合が生じて停止したようで、原因究明のため、作業は中断していたところだった。この状況下で、仮処分決定となった。
遡ると、大震災後停止していた高浜原発の再稼働に関しては、昨年3月に、規制委員会の新規制基準の適合審査に合格したのだが、それから間もない昨年4月、立地自治体である福井県の福井地裁から、再稼働を行わないよう求める住民の請求を認める、仮処分が出されて、再稼働の準備に待ったがかかっている。
この辺の状況については、本ブログの下記記事
①原発再稼働の司法判断 (2015/5/13)
で取り上げている。
そして、前述のように、昨年末、同地裁が、事業者からの異議申し立ての主張を認めて、仮処分を解除する決定を出した。 これを受けて、上述のように関電は、間髪をいれず、再稼働の準備を行い、2月から、営業運転に入っていたのである。
この辺の経過は、当ブログの下記記事
②高浜原発の再稼働 (2016/1/31)
で取り上げたところだ。
そして、今回の大津地裁による運転停止の仮処分決定と、これを不服とする、事業者の関西電力による、異議申し立てである。
いやはや、めまぐるしい変化ではある!
今回の大津地裁の運転停止の仮処分決定については、実際の資料は見ていないが、報道される情報をもとに、関心を持つ一人として、幾つか、印象を述べることとしたい。
イ 安全性と避難計画
立地から想定される、当該原発に対する地震・津波等の災害のリスクについては、適合審査段階で、科学的な根拠に基づいて、十分に考慮されており、そして、それに対する対策についても、福島第一事故の教訓から、大幅に拡充・強化されていると、筆者は考える。
でも、前回の福井地裁での、仮処分決定の時は、これらをよく理解しないままに司法が偏った判断をしている。引き続いて行われた、この解除を決めた判断は、妥当なものとなっている。(②記事 参照)
そして、今回の大津地裁の判断は、同じパターンの繰り返しに見える。しかも、今回は、隣接する滋賀県の住民の訴えを認めるという、やや、スタンドプレーに近いものだ。
通常は、原発から30km圏内の住民が、避難対象となっているが、下図の様に、滋賀県はその圏外で、京都府の舞鶴市などが、近接した圏内にある。
勿論、一旦、高浜原発で大事故が起これば、福島第一原発事故の時のように、放射性物質は、風向きとも関係し、琵琶湖も含めた広い範囲に飛散することとなる。
(ネット画像より)
高浜原発でもそうだが、先行稼働している川内原発1、2号機や、適合審査に合格し、再稼働が近いと言われる伊方原発でも、事故発生時の周辺住民の避難計画の具体化については、原発から先の岬の住民の避難も含めて、十分とは言えない状況だ。
この理由は、IAEAの勧告とは異なって、日本の場合は、周辺住民の避難計画は、規制委員会での安全性の適合審査の対象には包含されず、自治体の防災計画の一環となっていることが挙げられ、今後に課題を残していると言える。(①記事 参照)
ロ 仮処分の存在意義
②記事で述べたことだが、司法による仮処分の決定は、行政等の事案に対する、住民側からみた問題提起の手段として、重要なものではあろう。 司法によるこの決定には従わざるを得ない、伝家の宝刀だろうか。
通常の訴訟手続きと仮処分手続きの違いについては、筆者は把握してはいないのだが、事の重大性や緊急性が大きな要素の一つだろうか。
でも、今回の大津地裁での住民側の申請と司法の決定は、その、「濫用」「乱用」にも思える。「宝刀」というより、幼い子供に、「刃物」を持たせるようにも見える。
訴えられる事業者側から見ると、大変厄介なことだ。
原発を巡る訴訟案件がどの位あるのか、その実状は知らないが、相当な件数だろう。報道では、高浜原発の稼働停止を求める申し立てを、またまた、福井地裁に対して行う動きもあるようだが、大津地裁から仮処分の決定が出たので、様子見という。
住民側の、異議申し立てに掛かる手間暇や、費用がどの程度かは知らないが、比較的簡易に申請できて、係争に持ち込めるのだろうか。
原告側の申請を入れて、運転停止の仮処分が決定され、一方、それに対する被告側の異議申し立てが認められて、仮処分が「解除」された場合は、被告側が損害賠償を請求できるようだが、それを実行するには、またまた、手続きが必要となるなど、簡単には決着が付きそうにない。
損害賠償させられる可能性があっても、仮処分の濫用を押さえる抑止力とは、実質的にはなっておらず、被告側は実害を被っても、損害賠償の請求には踏み切れないだろうか。
この1月、仮処分の解除を受けて、そそくさと再稼働を開始した関電としては、それまでの損害賠償を請求する面倒な手続きは、考えていないだろうと思われる。
先日、3・11から、節目の5周年を迎えたのだが、未曾有の原発事故を経験しただけに、国内のエネルギー政策と原発の方向、事故処理の見通し等については、我が国の国論は定まらず、未だに、多くの課題を残したまま具体化が進んでいない。
果たして、今回のような形で、コップの中の争いを繰り返しているだけでいいのだろうか。