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名前の話題ー夫婦別姓

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2015年12月10日(木)  名前の話題 ―夫婦別姓

 

 

 先日は、当ブログに

         名前の話題 ―「姓」と「名」 (2015/11/30)

 

を投稿したところだが、本稿は、それに続くもので、メインテーマである、夫婦別姓の話題を取り上げている。

  

◎夫婦の姓に関する日本の実状

◇周知のように、我が国の法律では、結婚する場合、婚姻届で、夫婦の姓は同じとし、夫婦どちらかの姓を名乗ること(夫婦同姓)が、義務付けられている。

  即ち、夫婦それぞれの姓が別々であること(夫婦別姓)は認められておらず、そのような届けは、受理されず、戸籍上の正式な夫婦とは見做されない。このことから、別々の姓のまま、同棲するカップル(事実婚)も、あるようだ。

 婚姻届で、夫婦どちらの姓にするかは、建前では、自由に選べるとなっているが、実体は、次項に述べるように、習慣的に、夫側に大きく偏っている。

結婚後に、子供が生まれた場合には、出生届が必要だが、この子の姓は、自動的に、親である夫婦の姓となる。

 

◇結婚時に、夫婦それぞれの、どちらの姓が、実際に選ばれているのだろうか。

 やや古いデータだが、2007年時点の厚生省統計では、妻の姓を選ぶケースは、下図のように、結婚全体の3.7%に過ぎない。妻の姓を名乗るこの場合、通例では、夫側の婿入り、妻側の婿取り、となる。

      

 上図で、データの径年的な傾向を見ると、近年になる程、妻の姓の比率が、徐々に増えて来ているようだ。 又、初婚、再婚別では、女性が再婚する場合、女性の姓となる割合が多い(9%)ようだ。(以上 厚労省の婚姻統計より: 夫婦別姓を待つ身の溜息 より)

これを裏返せば、圧倒的に96.4%もが、夫の姓を選んでいる訳で、通例では、妻側の嫁入り、夫側の嫁取り、という形となる。

 我が国で、夫婦どちらの姓にするかは、法的には、何の制約も無く、自由に選択できる。でも、夫側の姓が、圧倒的に多いという事実は、正に、国の風習、慣習であり、価値観であり、伝統文化でもあろうか。

家を重んじ、女性の人権を軽視する、古い封建的な因習が色濃く残っている、と言えるだろうか。

 

 

◎夫婦同姓と夫婦別姓

◇世界の状況

 夫婦の姓に関する、歴史的な経過については、洋の東西を問わず、一般的には、男系中心の社会で、夫の姓を名乗ってきたものと思われる。古い時代には、女系中心で、妻の姓を名乗った地域等もあっただろうか。

 時代が進んで、男女平等、個性の尊重、呼称の自由、等の考えが広まり、1900年代末期から、欧米の先進国で、夫婦別姓が選択できるようになり、2000年代には、アジアなどでも、この気運が高まったようだ。 

差異はあるが何らかの形で、妻の姓を残す選択もできるなど、世界では、広義の夫婦別姓が行われているようだ。

今や、夫婦同姓(夫婦同氏の原則)を強制しているのは、なんと、ほぼ、日本だけのようだ。(世界の夫婦別姓 より)

 

◇結婚時の姓のパターン 

  2人の男女が結婚する場合の、夫婦の姓に関する状況を、整理してみる。 

仮に、結婚前の男女の、姓+名を、男性:A+B、女性:C+Dとすると、結婚後(⇒)の、姓+名の状況としては、一部、曖昧さがあるが、世界全体では、大凡、以下のものがあるようだ。(夫婦別姓 - Wikipedia 世界の夫婦別姓 等より) 

 以下のグループ分けと呼称は、筆者が便宜的に行ったものである。

⇒ ①強制的夫婦同姓グループ (夫婦同姓が強制される)

   日本:夫婦同姓が強制されていて、イ、又は,ロを選択

          イ 夫の姓を選択  夫A+B 妻A+D

     ロ 妻の姓を選択  夫C+B 妻C+D   

   スイス:妻は、通常、イの夫の姓になるが、自分の姓を付加出来る(ハ)

     ハ 妻の姓  A+B+D

   タイ:以前は、妻は、イの夫の姓になる夫婦同姓だったが、今は(ニ)

     ニ ④の選択的夫婦別姓に移行 

⇒ ②夫婦同姓を定めるグループ(①と同等) 同性を定める(ホ)→定まらない場合は夫の姓:憲法違反の判決

                                                      →自分の姓を選択可に(ヘ)

   ドイツ オーストリア:

     ホ 夫A+B 妻A+D、夫C+B 妻C+D (夫又は妻の姓を選択)

     ヘ 夫A+B 妻C+D (実質⑤に同じ)

⇒ ③強制的夫婦別姓グループ  結婚しても、姓は変わらない(氏不変の原則)。

                                         妻は、同性には出来ず、結婚前の別姓が強制される。

     東洋諸国(中国 韓国)、カナダ(ケベック州) イタリア スペイン 中南米スペイン語圏:

         ト 夫A+B 妻C+D

     *このグループは、妻側に結婚前の姓(別姓)を強要することで、相続や財産上の権利を認めないという、明確な狙いがあったようだ。

従って、形式上は夫婦別姓だが、男女平等、個性の尊重といった、⑤の流れとは正反対の、強制的考え方であることは、注意が必要だ。 

⇒ ④混在グループ   ①/③の変形

       フランス ベルギー:

     チ 夫は不変  A+B

       妻は、夫の姓に変えたり  A+D

                    夫の姓を付加できる    C+A+D、A+C+D  

⇒ ⑤選択的夫婦別姓グループ   夫婦それぞれ、別姓、同性を自由に選択

      欧米等(東欧 北欧 オランダ ギリシャ イギリス アメリカ オーストラリア  ニュージーランド 等): 

         夫婦別姓、夫婦同姓を選択(リ)  

       リ 夫A+B  妻C+D (夫、妻が別姓)

       夫A+B  妻A+D (夫の姓)

       夫C+B  妻C+D (妻の姓)

 

◇国連の動き

 国連では、1979年、男女平等を目的に、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」(略称 「女性差別撤廃条約」)(CEDAW)が採択され、日本は、85年にこの条約を締結し、批准している。

 今年は、批准から30年の節目の年に当たるようだ。(下図は、政府内閣府HPより)

      

 この条約の中では、夫婦が望む場合には、結婚後も、夫婦がそれぞれ、結婚前の姓(氏)を称することを認める「選択的夫婦別姓制度」についても定められている。

 この条約下に、女性差別撤廃委員会が設置され、この委員会が、2003年と、2009年に、“日本の民法で定めている、夫婦同姓、女性の再婚禁止期間等は、差別的な規定である”、と批判し、法改正するよう求めている状況だ。

  しかし日本は、この勧告に従っておらず、14年9月の、委員会への報告では、「法改正は国民の理解を得て行う必要があり、国民意識の動向の把握と、議論が深まるような情報提供に努めている」と弁明しているようだ。(時事ドットコム:夫婦同姓、厳しい国際世論=国連、法改正を勧告 )

 

◇余談:韓国の李さん親子の話

 以前、韓国での会議に出席した折、休日を利用して、観光バスで、古都 慶州(キョンジュ)周辺を廻った事がある。バスの隣席に座った誼で、現地の親子と親しくなった。一緒に食事するなど、打ち解けるうちに、名前を聞き、名刺を貰って驚いたことがある。母親(李)と息子(金)の姓が異なっていたのだ! てっきり、このご婦人は、離婚して子供を引き取ったのだろうか、と思った。

 恐る恐る聞いて見ると、公務員の夫は、単身赴任で他所にいるようで、まともな夫婦であった。 李さんが、笑顔で、“韓国では、結婚しても夫婦の姓は変わらず、子供は父親の姓になるんですよ”と教えてくれたので、ソーだったんだ、と、ほっと一安心した次第。 この母子には、後日、記念の写真を何枚か送ってあげた事である。

 

◎考察

 ◇夫婦別姓(夫婦同姓)の特徴

  一般的には以下のように言われている(夫婦別姓問題どうすればいい…賛否メリットとデメリットが気になる - NAVER まとめ 等より)

 

*夫婦別姓のメリットーー主に女性側から見た評価

   ・男女平等で不公平感や従属感がなくなる

   ・仕事上の不利益や生活手続きの面倒さがなくなる

   ・生まれた時の姓は、自分のアイデンティティ

   ・女性の社会進出がしやすくなる

   ・改姓が無いので女性の個人情報が保護される

 

*夫婦別姓のデメリットーー主に男性側から見た評価

   ・夫婦の姓が異なることの子供への悪影響

   ・家族意識が薄れ、家族の一体感が無くなる

   ・夫婦間の絆が弱まり、不倫や離婚が増える懸念

  (・現状では、別姓のままで事実婚を選ぶと、優遇措置が受けられない→別姓が制度化されれば、解消)

 

◇アンケート調査

 2015年11月下旬、中日新聞が、「選択的夫婦別姓」に関して、アンケート調査を行ったようで、その結果が公表された。調査に応じた対象者は、10~90歳の、7940人の男女である。アンケート結果を、下図に引用している。(夫婦別姓、多数が容認 本紙アンケートに7940人回答:暮らし:中日新聞(CHUNICHI Web)

・現行の、夫婦同姓を支持するという意見は、男は30%と多く、女は、かなり少ない。

・一方、自分は、夫婦同姓が良いが、他の人が別姓を選ぶのは自由、とする意見が、男女ともに、ほぼ同じで、過半数を占めている。これは、現在の習慣が定着している中でも、相手の別姓を支持するということだろう。

・更に、自分は別姓がいいが、他の人が別姓を選ぶのは自由とする、選択的夫婦別姓を支持する意見は、男は、かなり少ないが、女性側に支持者が多いのは頷ける。男女の割合が、夫婦同姓に対する支持の割合と、ほぼ、逆になっているのが面白い。

・この調査からは、総じて、選択的夫婦別姓を支持する意見は、男は70%弱、女は85%強と、国民意識が許容・支持の方向に向いて来ている、と言えるだろうか。

 

◇考察1 個体と名前

 個々の人間を、個体として特定するのに、現代は    

    社会的情報:名前、戸籍情報、個人番号 etc. 

に加え

   科学的情報:DNA情報、写真、指紋 etc.

があるだろうか。

 改姓で、名前の一部が変わっても、個体の人間としての中身は、何ら変わらないと言える。 

 

◇考察2  姓の重さー姓が変わること

 名前の中で占める、姓(氏 苗字)の重さは、かなり大きなものがあるだろうか。特に、結婚する以前の青少年時代は、学校や友人関係等で、姓名は極めて重要だ。 名前は、個人を識別する、重要な社会的ID(Identity、Idetification)で 個性の一部といえよう。

そして、社会人になってからは、殆の場合、姓(苗字)で区別され、呼ばれることが多い。

 

 この姓が、結婚を機に変わる(女性が96%、男性が4%)ことは、社会生活上、当事者にとっては、極めて大きな変化となる。考察1で述べたように、人間として、個体としては何も変わらないのだがーー。

 学校時代の同級生等の集まりは多いが、特に、女性が多い集まりの名簿では、現姓では思い浮かばず、旧姓をみて、ああ、あの人か、となる場合が多い。実際に顔を見るなり真っ先に思い浮かぶのは、旧姓の名前である。

 社会生活や職場では、結婚すると、多くの場合女性が、改姓し新たな姓で呼ばれることとなる。本人にしてみれば、旧姓が無くなる訳で、どんな気分だろうか。これを嫌って、通称として旧姓を残すケースもあるようだ。

多寡が苗字だが、特に、周囲が慣れるまでの期間は、本人の喪失感も大きいだろうと推測される。

 我が国では、大相撲、歌舞伎、落語などの世界では、名前が変わることが慣例的に行われているが、余ほどのファンでない限り、以前の名前でないと、思い出せないケースが多い。 

     

 歴史的には、社会全体が、父系社会の流れになっていることから、女性の人権が抑圧されて来たが、男女同権の思想から、婦人参政権や、教育の機会均等などで、権利の回復が進められて来ていて、世界では、現在も進行中だ。

 姓についても、夫主体になっていて、殆どの場合、妻側が、一方的な皺寄せで、夫側に改姓をさせられてきている。夫側は、何とも思っていないことが多いだろうが、決して平等ではないのは明白だ。  

 また、上述のように、東洋では、相続権や一族意識から、夫側に都合がいいように、妻側の改姓を認めず、別姓とする流れもある。

 男も女も、結婚する、しないに関わらず、出生時の姓は一生変わらないのが、単純明快でいいだろうか。

 

◇考察3 子供のこと

 結婚すれば、子供が生まれるのは自然だが、その子の名前はどうするだろうか。

  子供は、両親の姓を、そのまま合わせて受け継ぐとすると、代を重ねるにつれて、姓が、どんどん、長くなってしまうので、これを避けるために、片方の親の姓を付けるのが合理的だろう。

日本のように夫婦同姓の場合は明確で問題はないが、夫婦別姓の場合はどうするだろうか。  世界では、父親の姓を一義的に付与するケースが多いようだが、選択制もあるだろうか。

 

  我が国では、夫婦別姓のデメリットとして、先述のように、

   ・夫婦の姓が異なることの子供への悪影響

   ・家族意識が薄れ、家族の一体感が無くなる

等が言われている。 この観点からは、夫婦も、親子も同性が望ましいと言える。

 

 でも、親子関係や夫婦関係は、言うまでもないが、愛情と連携が基本であって、家族関係の中で、姓が異なることは、本質的なことではない、とも言える。余談で触れた、韓国の金さん一家の例もある。

 

◎今後の方向

 社会全体として、男女平等、人権の尊重、といった権利意識の向上の流れがあり、名前も個性の一つとして個性を尊重する流れもある。一方、価値観の多様化が進む中で、互いに違いを許容する社会を実現することが、大きな課題となる時代だろう。

筆者の好きな言葉では、ホモジニアスから、ヘテロジニアスへの転換である。

 

 来週12/16に予定されている、最高裁判決が注目されるが、どの様な判決となるだろうか。

筆者としては、現行の夫婦同姓の強制は違憲である、との判決が出るものと想定している。 国連勧告への対応もあり、女性尊重の観点から、日本としての残された近代化を進める、重要なチャンスでもあろう。 

 若し万一、“現民法の規定は憲法に違反していない”、といった判決が出た場合は、“日本の人権意識や民主主義は、世界最低”と言うしかなく、憲法判断を行う最高裁の、存在意義が疑われるだろう。

 アンケート結果にあるように、受け入れる素地はできつつあると思われ、過渡期では、多少の混乱も予想されるものの、新制度が定着するまでには、そう長くは掛からないだろうと思われる。

 明治以降、夫婦同性を強制して来た制度を改めて、同姓、別姓を自由に選択できる社会が来る日を待ちたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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