2015年11月30日(日) 名前の話題 ー 「姓」と「名」
この所、夫婦の姓等についての話題に触れる事が多くなっている。
先日の11月11日に、長年争われて来た、夫婦の姓等に関わる2件の訴訟の、上告審の最高裁のスケジュールが決まり、公表されたようで、暮れの12月16日に、最高裁大法廷で、2件合わせた判決が言い渡されることとなったようだ。
この2件の訴訟だが、詳細は省略するが、一つは、夫婦別姓を認めないのは憲法違反という主張で、他は、離婚後再婚する場合、女性だけに禁止期間があるのは、人権を侵害するものだ、という主張のようだ。併せて、2件とも、法改正せず放置した国会の怠慢も違法だ、としている。翌12日のNHK-TV番組 あさイチ でも、取り上げられている。
これらの判決の内容次第では、今後の日本の家族制度等に、大きな影響を与える可能性があり、注目されるところだ。
今回は、特に、姓についての話題を取り上げるが、本稿では、先ず、姓と名の主な事項について見てみることとしたい。
○用語
初めに、用語について整理したい。
人間それぞれの個体(個人)を識別し、区別する、最も基本となるID情報、属性情報が、「名前」(Name)であろう。
名前は、人間特有のもので、人間以外では、人間に可愛がられている、ペットや樹木等で、例外的に名前をつけられている個体があるだけだ。
人間社会では、「有名」、「無名」と言われるが、誰しも名前はあるものの、知られている範囲の広さによって、有・無が分れる。
日本語では、通常は、名前と言っているが、ほぼ同じ意味で、やや公式には、「姓名」、「氏名」とも言う。 姓名=姓+名、氏名=氏+名、で、姓と氏は、同じと見ることとし、更に、「苗字」という呼称も、本稿では同義とみて、以下では、原則的に、姓を用いることとしたい。
○名と姓と
先ず、子供が誕生すると、個人を表すのに、家族の中で、名(Given Name)が付与される。個人を表すID情報がまず決まるのが出生届で、ここに姓名が記載され確定する。今話題の、個人番号(マイナンバー)も、出生届と同時に付与され、今後は、国内での重要なIDとなるものだ。
集団が大きくなるに従って、区別するために、家族や、家系や、血縁や、地域縁などの情報を意味する、姓(Family Name)が加わり、宗教的洗礼名なども付加されて来ただろうか。更に、結婚や、養子縁組等を機に、結びつきが多様になり、姓名がより複雑なものとなる。
最後に、個人のID情報として、所属する国(Nationality)も必要となる。
これらの個人のID情報は、国の身分証明書である、パスポートに記載される。外国を旅行する場合、とくに、外国に入国する場合は、これらが重要となり、入国カードを提出することとなる。
ここで、入国カードを見てみる。外国人が日本を訪れた時に書く入国カードは、やや解り難いので、下図に、外国人が韓国を訪れた時に書く、入国カードを引用している。
日本人である、日本一郎氏が、外国人として、韓国に入国する例が示されている。 各欄に、漢字の姓名、英語の姓(Family Name)、英語の名(Given Name)、英語の国籍(Nationality)などを記入することとなる。(ネット画像より)
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入国カード(韓国 外国人 向け)
○姓の数
世界では、姓の数はどの位あるのだろうか? 総数は不明だが、ネットの或るデータでは、姓の数は以下のように例示されている。(姓 - Wikipedia より)
日本 姓の数30万 人口1.2億⇒人口当りの姓の数 25万/億
日本では、5大姓は、佐藤、鈴木、高橋、渡辺、田中のようだが、全体に占める比率はどのくらいだろうか。 姓は、地域や、職業等を表示するものが多いようだ。
姓に関する地域的な分布状況や偏り、歴史的な由来や変遷、など、膨大な各種統計や、調査研究があるようだが、ここでは省略したい。
余談になるが、ラグビーで一躍有名になった、日本代表フルバックの五郎丸歩選手は、苗字も極めてユニークだ。TV情報では、彼は九州福岡県北部の出身で、地域名が姓となっていて、出身地域の殆どの家の姓が、「五郎丸」だという!!
アメリカ 姓の数150万 人口3.1億⇒人口当りの姓の数 48万/億
合衆国という移民の国だけあって、やはり、姓の数も多いようだ。
韓国 姓の数250 人口0.51億⇒人口当りの姓の数490/億
韓国では、姓の数が極端に少ないのに驚かされるが、5大姓(金 李 朴 崔 鄭)で全体の54%も占めていると言う。(下図 朝鮮人の姓の一覧 - Wikipedia より)
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このように韓国では、姓は、家系や血族を表す意味が大きいようで、姓だけでは、個人を識別するのは困難なようだ。家系図を大事にする習慣があるようだ。
北朝鮮についても同様の分布とすれば、人口当りの姓の数が、更に小さくなると思われる。
中国 姓の数 23800 人口13億⇒人口当りの姓の数 1830/億
韓国程ではないが、姓の数はかなり少ない。
○姓と名の順序
呼ぶ時・表記する時の、姓と名の順序が問題である。 姓:F 名:G
◇現況
*自国内
東洋式 日本 F+G
中国、韓国も F+G
他に、ベトナム、ハンガリーが、F+G
欧米式 世界の多くの国が、G+F
*国際の場
・国際的に、何らかの決まりがあるのかは、未調査だが、マスコミの報道等では、通常、以下のようだ。
中国人、韓国人は、国内と同様、F+G
例:毛沢東(モウ・タクトウ) Mao Zedong
習近平(シュウ・キンペイ) Xi Jinping
朴槿恵(パク・クネ) Park Geun Hye
日本人は、国内とは逆にして、G+Fとする事が多く、中国、韓国と同様、国内のままで通すケースは少ないようだ。
・先日行われた、フィギュアスケートNHK杯での選手紹介は、以下のように、欧米人、中国人選手は、言語に拠らず国内と同じで、日本人は、使用する言語によって変えている。
日本人 欧米人 中国人
日本語で紹介 F+G G+F F+G
英語で紹介 G+F G+F F+G
・筆者が、初めて国際会議に出席(国連のITUの下部機関)した時のこと。自分が提出した情報も良くなかったのか、公式議事録の会議出席者名簿で、姓が名に、名が姓になっていて驚いたことがある。 英文名刺は、欧米式で作っていたのだがーー。
◇今後の方向
・姓と名の順序については、場所的要素では、個人のオリジナリティを尊重し、国内、国際を問わず、何処にいようと、日頃の習慣と同じ順序とすると言う考え方がある。一方、「郷に入りては、郷に従え」で、相手へ配慮し、その国の習慣に合わせるという考え方もあろう。
又、使用する言語によって、その言語の習慣に合わせるという考え方もあり、なかなか、悩ましい課題ではある。
・この、姓と名の順序については、2000年12月に、文科省 国語審議会から出された答申:
の中の第2項
“姓名のローマ字表記についての考え方”
で、以下のように述べられているので、やや長くなるが、引用したい。(国際社会に対応する日本語の在り方:文部科学省 より)
“世界の人々の名前の形式は、「名-姓」のもの、「姓-名」のもの、「名」のみのもの、自分の「名」と親の「名」を並べて個人の名称とするものなど多様であり、それぞれが使われる社会の文化や歴史を背景として成立したものである。世界の中で、日本のほか、中国、韓国、ベトナムなどアジアの数か国と、欧米ではハンガリーで「姓-名」の形式が用いられている。
国際交流の機会の拡大に伴い、異なる国の人同士が姓名を紹介し合う機会は増大しつつあると考えられる。また、先に記したように、現在では英語が世界の共通語として情報交流を担う機能を果たしつつあり、それに伴って各国の人名を英文の中にローマ字で書き表すことが増えていくと考えられる。国語審議会としては、人類の持つ言語や文化の多様性を人類全体が意識し、生かしていくべきであるという立場から、そのような際に、一定の書式に従って書かれる名簿や書類などは別として、一般的には各々の人名固有の形式が生きる形で紹介・記述されることが望ましいと考える。
したがって、日本人の姓名については、ローマ字表記においても「姓-名」の順(例えばYamada Haruo)とすることが望ましい。なお、従来の慣習に基づく誤解を防ぐために、姓をすべて大文字とする(YAMADA Haruo)、姓と名の間にコンマを打つ(Yamada,Haruo)などの方法で、「姓-名」の構造を示すことも考えられよう。”
・上記引用文の赤字は筆者が付けたものだが、要は、姓名は、文化の多様性を表すものとして、国内での慣習の形のまま、国際の場でも変えないのが望ましいとしており、中国式、韓国式の勧めである。この答申は、強制力はないものの、今後の国際化に向けての、一つの方向ずけとなるだろう。
筆者の場合、今後の必要性は少ないのだが、自作の名刺で、初めて、
表 漢字 姓+名
裏 ローマ字 F(全て大文字)+G(頭以外小文字)
従来は、G(頭以外小文字)+F(頭以外小文字)
スタイルにしてみようと思っている。
◇ 余談:
当今、日本語の「百姓」(ひゃくしょう)という言葉は、余り使われないが、農業従事者・農家・農民(farmer)を表し、やや、俗語に近く、現在は、差別用語ともいわれる。
本来は、「百の姓」ということで、古代には、「一般民衆」を意味する言葉だったようだが、いつの間にか、農民を意味するようになったようだ。 ドン百姓、水飲み百姓、など、極貧の民の代名詞にもなったが、苦しさに耐えかねた農民が、各地で、百姓一揆を起こしている。
苗字(姓)には縁のなかった農民が、このように呼ばれるようになった言葉の変遷は、興味深い。
次稿では、夫婦別姓の話題を取り上げる予定である。