2015年7月12日(日) ギリシャの国民投票 1
国民投票、住民投票に関しては、この所内外で
・2014年9月 英スコットランドでの住民投票――「イギリスからの独立」
(記事:スコットランドの行方 その1~3 2014/9/24~10/27)
・2015年5月 大阪市での住民投票――「大阪都構想」
(記事:選挙と住民投票 2 2015/5/28)
・2015年5月 アイルランドでの国民投票――「同姓婚」
(記事:選挙と住民投票 3 2015/6/02)
と続いたが、当ブログでも、それぞれ、上記のように、関連する記事を投稿して来た。
本稿では、先日行われた、ギリシャの国民投票を主な話題としたい。
◇国民投票前夜
ギリシャの、ここ数年来の、経済的な危機と政治状況について把握するのは、門外漢には、困難なテーマだが、分る範囲で追ってみた。
2009年に、歴代の政権が、財政収支を粉飾し、巨額の財政赤字を隠していた事が明らかになり、財政危機状態に陥った、と言われる。
その後、EUなどの支援を受け、苦境に耐えながら取り組んで来たことだ。この1月の総選挙で、爆発寸前の国内の不満を引き受けるかのように、現チプラス政権が誕生し、以降、EUに対して、強硬な姿勢を取って来て、どら息子よろしく、親の手を焼かせている。
そして、この6月末に迫った、財政上の手詰まりに際して、現政権は、土壇場で、7/5に国民投票を行って民意を問うと表明し、先日、慌ただしく敢行した。国民投票は、どうやら、混乱なく終了したようだ。
ニュースで伝えられる所では、IMFから受けている支援(16億ユーロ 約2000億円)の返済が、この6/30が期限だったようだ。これにあたって、ギリシャは、EUに対して、更なる資金的支援を要請したが、EU側は、ギリシャを支援する条件として、ギリシャに対して、一層の、財政緊縮策の受け入れ求めたようだ(5/25)。でも、ギリシャは、新たな緊縮策を受け入れなかったため、EUの支援が得られず、債務は返済できなかったという。
そして、チプラス首相は、時を同じくして、EUの要求している財政緊縮策を、受け入れるか否かを、返済期限を過ぎた7/5に、国民投票を実施して決める、と発表し、予想外の展開となったのである。
IMFの融資で、このような事態になったのは初めてのようだが、でも、通常のデフォルトとはせず、返済が遅れている、遅延国の扱いとしたようだ。
EUの要求している、新たな財政緊縮策の内容は、余り明確ではないが、以下のようだ。(ギリシャ国民投票 続く NHKニュース より)
歳出の削減:
公務員の早期退職制度の見直し
年金の支給開始年齢の段階的引き上げ
年金受給者の医療負担を増やす
歳入の増加:
付加価値税の税率引き上げ
税の優遇措置の見直し(対 島嶼部)
脱税等の罰則強化の法律整備
下図は、今回の国民投票の投票用紙だが、ギリシャ語の意味は、
ギリシャ語 英語 日本語
上欄 OXI(ウヒ)→ NO 反対
下欄 NAI(ネ) → YES 賛成
となるようだ。
この種の投票用紙では、通常は、賛成欄が先にくるが、今回では反対欄が先になっているのは、反対投票を呼び掛けている、現政権の意図だろう。
国民投票用紙(ネットより)
◇国民の戸惑い
新たな緊縮策に対する賛否を問うという、今回の国民投票だが、YES賛成、NO反対が、何を意味するのか、当事者のギリシャ国民から見て、更に、外部から見て、可なり「難解な理屈」と言えるだろう。今回の国民投票の結果に言及する前に、この、難解な理屈について考えたい。
EUとギリシャとの関係だが、一般的な契約や金融取引等での、通常の、独立した対等な関係では無く、筆者流に譬えれば、“どら息子(ギリシャ)と、それを抱える親(EU)との関係”に見えて仕方が無い。
親のEUは、表向きは、提示している緊縮策を呑まなければ、支援を打ち切り、ギリシャがデフォルトになるのも辞さない、と脅してみせた。でも、息子のギリシャは、“ギリシャがデフォルトになるのは避け、EUから離脱して欲しくない”、というのが、EU(親)の本心、と見透かしているように振る舞っている。親は、息子を勘当して見放すことが出来ない、と踏んでいるのだ。
投票する国民には、どのように見えたのだろうか。
*「反対」に投票することは、支援の条件となる、EU案の受け入れを拒否することで、従って、これ以上の支援が得られないという選択だ。常識的な理解では、ギリシャが、EUから離脱することにも繋がり、デフォルトになる道でもある。
反対することは、EUから見放されようが、堂々と、我が道を行く、と言うのが、本来の姿勢だろう。
でも、反対すると、EU側がより受け入れやすい案を出してくる余地が残っている、と思っているようで、ここが、理解に苦しむところだが、どら息子の論理だろう。首相は、声高に、反対を呼び掛けたのである。
*一方、「賛成」に投票することは、新たな緊縮策を受け入れて、EUに支援して貰うことで、今まで以上に苦しい状況になるのは、覚悟せねばならない。国民にとっては、これまでも、失業率は非常に高く、散々苦労して来た(と思っている)のに、更なる苦境が予想され、生易しい事では無く、もう結構だ、と言いたいだろうか。
要は、反対か、賛成かの、言葉ではなく、厳しい条件をつけるEUだが、ここしか頼る所はないので、民意を背景にして、EU(親)に対する交渉力を強め、より有利な支援条件を引き出したい、ということだろう。
親との交渉力を強めるため、国民投票での反対を呼び掛けたようで、とんでもない、どら息子と言える。
◇国民投票の結果
国民投票の結果は、報道されているように、以下のようになった。
有権者 18歳以上 約986万人 (総人口1100万人)
投票率 62.5% (成立条件は、40%以上)
開票結果 緊縮策に反対 61.31%
緊縮策に賛成 38.69%
この結果、不正は無かったとすると、投票率も高く国民投票は有効となり、可なりの差で、反対票が、賛成票を上回ったようだ。
「民意」は、EUの財政緊縮策を「拒否」したのである。
以下のサイトの情報等から推測すると、ギリシャ国民は、投票での賛否の意味が、かなり不明確な中で、混乱しながら投票したと思われるのだ。
即ち、終了後の一般市民の反応は、政府を信用して「緊縮策が続くという最悪の事態は避けられた」、と単純に喜んでいるようだ。でも、心ある市民は、「ヨーロッパに残るのは嫌だけど、お金を貸してくれ、という理屈が通るのか」と言い、どら息子の論理は通らないのでは、と危惧しているようだ。(ギリシャ国民投票受け EU対応に追われる NHKニュース )
国民投票での、どら息子の難解な論理は、論理学の否定の否定、のようでもある。
詰まるところ、ギリシャ国民は、EUに残留し、通貨もユーロのままで、支援を受けながら、何とか生活を立て直したい、ということだろう。
◇当面の懸案と動き
ギリシャの抱えている総債務残高は、3130億ユーロ(日本円で、42兆円)とも言われ、これらの、内訳と、各々の返済期限という全体像は、筆者は、明確には把握していないが、差し迫った、次の債務は、ECB(EUの中央銀行)からの270億ユーロ(約3.5兆円)で、7/20が返済期限という。これをどうするかが、さし向きの懸案のようだ。
国民投票後、EUでは、チプラス首相も呼んで、緊急の首脳会議が開かれるなど、連日のように、この関連の交渉や会議が続いているようだ。
ごく最近の報道では、チプラス政権が、国民投票の結果に反して、基本的にEUの緊縮案を受け入れる事に方針転換したようだ。このため、「構造改革案」なるものをまとめ、議会の承認を得て、EUに提出したという。首相は、EUに残るために、と強調したようだ。
今回の構造改革案の、具体的な内容は、公表されていないようだが、下図はネット情報から得たものだ。(ギリシャ議会が改革案を承認。EU側の緊縮策をほぼ受け入れ。 | 2chまとめポータル) 本稿の前半で触れた、EUが要求した緊縮策に、おおよそ、対応しているようだ。
同じく、NHKニュースの情報では、一部は異なるが、以下とある。(ギリシャ提出の改革案 EU案に近い内容 NHKニュース)
歳出削減:
年金の支給開始年齢の引き上げ(2022までに67歳に)
年金受給者の医療費の負担増(4%→6%)
早期退職制度の見直し
歳入増加:
ホテル宿泊費を除く付加価値税(消費税)の増税
年金受給者の医療費の負担増(4%→6%)
離島への付加価値税優遇措置の廃止(2016末まで段階的に)
この構造改革案を示すことで、ギリシャとしては、3年間で、535億ユーロ(約7.1兆円)の金融支援を得たいとしているという。
結局、どら息子も、親を頼って、生きていくしかないようだ。
EU側としても、これまでの経緯もあり、俄には、ギリシャ(ギリシャ政府と国民)を信用できないようで、結論は持ち越されているようだ。
又、EUの緊縮策を、基本的に受け入れる、この構造改革案について、国民投票で、NO(OXI)とした市民達は、”俺たちを裏切るのか”、と猛反発しているという。
国際経済では、ギリシャの先行き不安や、中国経済の動きもあって、世界各地で株価が急落しているようだ。
次稿では、国の財政赤字に関して、ギリシャを他山の石としながら、EUや世界の状況と我が国の現状を見て見たい。