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明治日本の産業革命遺産

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2015年7月8日(水) 明治日本の産業革命遺産

 

 

 この所、梅雨空が続き、昨日は、恒例の七夕様で、二十四節気の小暑でもあった。

最近、国内外で、大きなユースが多いが、今回は世界遺産登録を取りあげたい。

 

 ドイツのボンで開かれていた、第39回ユネスコ世界遺産委員会で、先日の7/5、日本から提案されていた、

        「明治日本の産業革命遺産―製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」

が、世界文化遺産として登録されることが決まったようだ。

 日本から世界遺産となったのは、今回で19件目となるが、一昨年の富士山、昨年の富岡製糸場に続く、3年連続の快挙である。

これまでの、長年に及ぶ、本件関係者の努力と御苦労を多としたい。

 

  ユネスコの世界遺産の評価基準(登録基準)では、今回の遺産は、

 2)建築、科学技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展に重要な影響を与えた、ある期間にわたる価値観の交流又はある   文化圏内での価値観の交流を示すものである。

4)歴史上の重要な段階を物語る建築物、その集合体、科学技術の集合体、あるいは景観を代表する顕著な見本である。

に該当するようだ。

 幕末期の西洋技術の導入から、その後の明治期の国家主導で発展させてきた鉄鋼・製鉄、造船、石炭産業の近代工業化の過程を示す資産として顕著な普遍的価値を有している、と評価され、登録されたものという。

 

 分野としては、文化遺産の産業遺産になり、我が国としては、

    ・石見銀山遺跡とその文化的景観

    ・富岡製糸場と絹遺産群

に続く、3件目となる。

 

 

○ 構成資産概要

 今回登録された世界遺産の構成資産は、1850年代の幕末から、明治末期の1910年迄の施設を対象として、テーマに沿って、岩手県から鹿児島県までの全国に点在する23遺産を集合し、これらを、8つのエリアに纏めたもので、8県11市に及んでいる。

以下に、所在地の地図と一覧リストを、引用する。(「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」世界遺産登録決定!! - 福岡県庁 など参照) 

1

1

萩反射炉

 

 

2

美須ケ鼻造船所跡

 

 

3

大板山たたら製鉄遺跡 

 

 

4

萩城下町

 

 

5

松下村塾

2

鹿児島

6

旧集成館(旧集成館反射炉跡、旧集成館機械工場、旧鹿児島紡績所技師館)

 

 

7

寺山炭窯跡

 

 

8

関吉の疎水溝

3

韮山

9

韮山反射炉

4

釜石

10

橋野鉄鉱山・高炉跡

5

佐賀

11

三重津海軍所跡

6

長崎

12

小菅修船場跡

 

 

13

三菱長崎造船所第三船渠*

 

 

14

三菱長崎造船所ジャイアント・カンチレバークレーン*

 

 

15

三菱長崎造船所旧木型場

 

 

16

三菱長崎造船所占勝閣*

 

 

17

高島炭鉱

 

 

18

端島炭鉱

 

 

19

旧グラバー住宅

7

三池

20

身三池炭鉱・三池港(三池炭鉱宮原坑、三池炭鉱万田坑、三池炭鉱専用鉄道敷跡、三池港)

 

 

21

三角西(旧)港 

8

八幡

22

官営八幡製鉄所(八幡製鐵所旧本事務所*、八幡製鐵所修繕工場*、八幡製鐵所旧鍛冶工場*)

 

 

23

遠賀川水源地ポンプ室*

 

 これらの施設の中には、現在も、以下のように、現役として使われているものもあるのは驚きで、素晴らしいことだが、止むなく非公開(表中*印)のようだ。

     項番 13、14、16  造船関係  三菱長崎造船所 

     項番 22、23     製鉄関係  官営八幡製鉄所 

経営環境が大きく変遷する中で、これらの施設を、現在まで稼働させてきた、当該企業の努力に敬意を表したい。

 又、  項番  4  萩城下町

          5 松下村塾

         19 グラバー住宅

は、直接的な産業遺産ではないが、人材教育や経済活動等で、当時の社会を先導する役割を果たすとともに、地域によって大切に守られてきた建築物としての価値も大きいだろうか。

  

○ユネスコ委員会―土壇場での騒動

 委員会を間近に控えた日韓外相会談で、お互いに、登録を支持する主旨の合意があり、誰もが、無事に登録が決まると思っていたのだが、土壇場で躓いてしまったようだ。

 韓国の案件は、予定通り登録されたのだが、日本の案件は、意見陳述の文言を巡って、審議予定期日までに、日韓の間で調整がつかず、全員一致の原則から、当案件の審議は、一日遅れに延期される事態となった。

やり取りの内実は、やや不明だが、今回登録する施設の中に、韓国人が徴用工として働かされた所があるようで、この事実を巡っての文言で対立があったようだ。

 最終的に、朝鮮半島出身者が、「自らの意思に反して連れてこられ、厳しい条件で労働を強いられた」とすることで、日本政府代表が妥協し、英文では、

     “forced to work”

となったようだ。これは、誰が見ても、「労働を強制された」の意で、強制労働であろう。

  そして、文言では、更に、「被害者を記憶にとどめるため」、情報センターの設置を検討する、としているようで、この文言を使うことで、韓国も合意したという。

 

 今回の遺産の構成資産の中に、韓国朝鮮人が、徴用工として働かされた施設は、公にはされていないが、7か所程あると言われるが、時期的には、明治よりも大分後の、太平洋戦争の頃という。

これを理由に、日本としては、対象としている時期が違うので、問題は無い、と主張して来たようだ。 

 7日のニュースでは、岸田外相は、今回の遺産登録を巡るやり取りで、日本が、徴用工の強制労働を認めた訳では無い、とやや苦しい弁明をしている。

 この関連を含め、日韓関係等については、次稿で触れることとしたい。

 

○ 構成資産に因んで

  今回登録された構成資産の中で、筆者が訪れたことがある施設について触れたい。

 

①構成資産では、溶鉱炉に関する施設としては、

    項番 1 萩反射炉

        2 大板山たたら製鉄遺跡

        6 旧修正館(反射炉跡)

       10 橋野鉄鉱山・高炉跡 

があり、これに加えて、

        7 韮山反射炉

があるが、この5月下旬、友人グループで、ここを訪れる機会があったのだ。

 この施設は、歴史の教科書にも出て来る著名な遺産だが、ICOMOSの推薦で、世界遺産の登録は確実とあって、平日にも拘わらず、可なりの人が見学に来ていた。   

 韮山反射炉は、蘭書に基づいて、江川(太郎左衛門)英龍が建造したと言われる。 案内役の説明では、反射炉という呼称は、炉の中の温度を上げるため、壁面での反射熱も利用する構造になっていることから来ているようで、温度は、1300~1700℃位になったようだ。鉄の融点は、1500℃程という。(製鉄の歴史 参照)

 炉で溶かした銑鉄を型に流し込んで、大砲等も作ったようで、そちらの工程の作業場も、当時は整備されていたようだ。

当時の国内で、実用に供された、唯一の炉と言われ、現在、倒壊を防ぐため、鉄骨の補強材で支えられているが、ほぼ、完全な形で保存されている。

 この韮山反射炉を見るのは、2度目で、かなり以前だが、知人と訪れたことがある。

 

      

    入口付近から(筆者)                   別方向からの全体図(ネット)  

②以前だが、縁あって、長崎出身者の婚礼の媒酌人を依頼され、ご両親へのご挨拶に、夫婦で長崎を訪れたことがある。 お決まりで、市内の眼鏡橋や、高台にあるグラバー亭(項番 19)を訪れた。 

 眼下に、広大な、三菱造船所を見下ろす、グラバー亭からの景観は、海とのコントラストも素晴らしいもので、日本の産業の力が、身に迫ってくるように感じられたものだ。 

 

③萩の松下村塾(項番 5)は、言う迄もなく、大河ドラマ「花燃ゆ」の、前半の中心的な舞台である。

萩は訪れたことは無いが、ドラマでは、主人公の「文」が、萩から下関まで、歩いて行く場面があり、そんな距離か? と思った事だ。

 

 実は、以前、下関を訪れた時に、現地に住む親戚の人に案内されて、高台(火の山?)にある、砲台を見た事がある。

ドラマの下関では、沖に停泊している外国船に向けて、大砲を撃つ場面が出て来る。

 

 あの時の大砲は、国内の何処で作ったものだろうか(伊豆韮山?)、或いは、オランダ商人(長崎グラバー亭?)から、購入した物だろうか? 又、砲台は何処にあったのだろうか(下関火の山?)と、これまで訪れた場所が、偶然にも繋がって、想像は膨らむのだ。

そして、幕末の情景が思い浮かび、当時の緊迫した空気が伝わってくるような、不思議な感覚を味わったことである。

 

 次稿では、世界遺産の今後の課題を考察するとともに、今年で、戦後70年を迎えるが、日韓関係も含め、明治期から終戦までの日本の歩みを、振り返ることとしたい。


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