2014年11月9日(日) 川内原発再稼働 地元同意
この7月に、九州電力の川内原発が、原発の安全性に関する、原子力規制委員会の新基準に基づく適合審査に合格したが、これについては、当ブログの下記記事で詳細に触れている。
原発の安全審査 1~4 (2014/7/29~8/7)
そして、前稿の、
川内原発の適合審査合格 (2014/9/14)
で総括的に、IAEAとの関連や課題について論じて来たところだ。
本稿は、先日、川内原発の再稼働について、地元の同意が得られた話題を中心に述べている。
○地元自治体の同意
その後、関係する機関等での論議や、地域住民に対する説明会などが行われてきたが、立地自治体である薩摩川内市の議会と市長の同意、鹿児島県議会の同意を経て、一昨日の、11月7日、鹿児島県知事が、地域の代表として、川内原発の再稼働について同意する旨を公表した。(川内原発再稼働 鹿児島県知事が同意 NHKニュース) 等)
鹿児島県の伊藤知事は、午後に開いた記者会見で、
「諸般の状況を総合的に勘案し、再稼働はやむを得ない」
と述べている。
伊藤知事は、今回、再稼働に同意したことに、「国民生活のレベルを守り、わが国の産業活動を維持する上で(原発は)重要な要素だ」と理解を求め、「わが国の当面の判断として原発を活用する以外に道がない。安全性がある程度約束されるのであれば、それがベターだ」として「やむを得ない」の理由を説明した。
会見では、同意した理由として、
①事故時に国が責任を持つことなどを国が約束した
②原子力規制委員会の審査で安全性が確認された
③立地自治体の薩摩川内市の市議会と市長、県議会の同意が得られた
といった点を挙げた。
特に、②の関連で、原発事故への不安については「福島であれだけの不幸な事故が起きた。安全神話が全部崩れたのは確かだ」との認識を示しながらも、原発事故後に設けられた国の新規制基準を高く評価。原子力規制委員会の指針や九電の評価を引用し、事故が起きても原発から5.5キロの放射線量は毎時5マイクロシーベルトだとした上で「避難の必要がない。普通に生活してもいい」と述べ、「もし福島みたいなことが起きても、もう命の問題なんか発生しない」と明言した。(川内原発再稼働同意:「命の問題発生せず」鹿児島知事 - 毎日新聞)
最後の下りは、“よくぞここまで言い切ったものだ”と、我ながらびっくりしたのだが、筆者も、これまでのブログ記事で述べているように、知事と同意見だ。 新基準では、安全策については、福島の重大事故を教訓として、抜本的に見直しして対処しているが、このことをしっかりと理解した上での知事の見解である、と高く評価したい。
知事のやり方やスタンスについては、一部に批判があるようだが、地元の雇用の確保や活性化のために、妥協して、安全性をないがしろにしている訳ではなく、為政者としての、的確な判断をしていると思う。
今後は、事業者から規制委員会に提出されている、設備等に関する詳細設計についての、最終検査等を経て、年明けにも再稼働が行われるという。
国としても、担当大臣である経産相が変わる等の政治的ハプニングがあったが、これで、大きなハードルをクリアした、といえようか。
○自治体の範囲
ここで、関係する地域自治体の範囲について触れておきたい。川内原発から、30km圏内にある、関係自治体は、下図のように、県は別にして、9市町があり、事故発生時の避難計画を策定することとなっているが、現状では、必ずしも十分ではなく、課題も多いようだ。
関係自治体
また、原発から近い距離に多くの住民を抱えながらも、立地自治体ではない、いちき串木野市(5.5kmにも)や、日置市等は、同意か否かの意見を求められていないことに、不満もあるようだ。
でもここは、立地自治体と県が代表して、意見を表明している、と見ればいいだろうか。
鹿児島県知事が言うように、事故が起こっても、命の問題なんか発生せず、更に避難の必要も無いとなれば、しめたものだが、そうはいかないだろう。
ともかく、最悪の事態が起こった時の身を守る避難計画について、色んな状況やファクター毎に、机上であれこれ心配しても切りが無い面もあり、基本を押さえた上で、その場の状況に応じた、柔軟な対応が必要と言う事だろうか。
上記関係自治体の一つで、たった11世帯が関係するという、姶良市では、市議会が、川内原発の“廃炉”を決議したという。余りの単純さ、知識の無さ、現実を見ない姿勢に、筆者は唖然とした次第。(2014/11/07 【鹿児島】川内原発再稼働を県も容認、「同意」の言葉は使わず | IWJ Independent Web Journal)
○火山リスクの評価
先の適合審査では、自然災害等のリスクについて、科学的に想定し対策することとなっているが、福島の事故の教訓では、地震と津波が主であったことは否めない。
日本は、地震国であるとともに、火山国でもあることを、今回の、御嶽山の噴火で思い知らされたことだ。
御嶽山の噴火を切っ掛けに、筆者も、火山について少しく知識が増え、九州の阿蘇カルデラや、桜島と姶良カルデラについて調べただけに、川内原発について、改めて見て見ることとしたい。
川内原発の近くには、下図のように、幾つかのカルデラがあり、現在活動中や、最近活動した活火山として、阿蘇山、霧島新燃岳、桜島、雲仙普賢岳、などがある。
(ネット画像)
改めて、新規制基準をみると、火山のリスクを評価し、対策を行うよう明記してある。
これについて、川内原発に関する、事業者の申請書では、
・160km以内のカルデラ等で大きな噴火が起こる可能性は低いこと
・地殻変動、地震活動に関する情報収集を継続的に行い、監視すること
・降下火山灰は、過去の桜島薩摩噴火での降下量から、15cmと想定し対策を実施
としている。
火山が噴火した時の、建物や原発設備の被害は、どう、想定するのだろうか。
火山灰や噴石類は、基本的に建物の外なので、電線や配管等が駄目になり、全交流電源喪失という、シビアアクシデントも起こるだろうか。
最も怖いのは火砕流だが、規模によっては、屋外設備だけでなく、施設建物が根こそぎ壊れる事もあるだろうか。でも、地震や津波に比べると、かなり、時間的な余裕はあるだろうから、運転を停止したり、被害を減らす対策は出来るだろう。
下図は、29000年前に、錦江湾北部で巨大噴火が起こり、そこが陥没して姶良カルデラが形成される一方、その時に流れた火砕流で、シラス台地となった範囲を表しているという。川内原発ギリギリまで到達したようだ。(桜島の誕生 - みんなの桜島)
火砕流の流出範囲
地質学的な時間軸で言えば、日本国内では、平均すれば、6000年に一度位の頻度で大噴火が起こっているようで、最も近年のカルデラの噴火は、7300年前の、喜界カルデラ噴火という。現在は、何時起こってもおかしくない状況と言えるようだ。(NHK そなえる防災|コラム|カルデラ噴火! 生き延びるすべはあるか?)
この様な大噴火の年月日を予測するのは、不可能に近く、火山災害のリスクは、経験に基づく確率論となる。極論すれば、事前に膨大な資金をつぎ込んで、万一の対策を立てるか、合理的な対策に留めて、その時はその時と割り切るか、だろう。
地震・火山が集中しているこの国には、安全な場所などは、殆ど無いことを、肝に命じることから出発すべきだろう。