2017年4月4日(火) 韓国大統領が罷免に
この所、内外の大きな、興味深いニュースが続いていて、目が回りそうだが、そのうちの一つが、3月10日、韓国憲法裁判所が、朴槿恵(パク・クネ)大統領の、国会での弾劾は正当であると判断し、罷免が決定された事案である。そして、前大統領に対して、検察が、逮捕状を請求し、又しても、ソウル中央地裁が、逮捕を妥当と判断し、収監されたというニュースも流れている。
このようになると予想していた筆者には、大きな驚きは無かったのだが、韓国国内では、罷免は妥当とする勢力と、罷免に反対する勢力との衝突があり、死者が3人も出ているようで、国論は、2分されているともいう。こんな中で、つい先日は、沈没して多数の犠牲者が出たフェリーセオウル号の引き上げが行われたようだ。
韓国憲法の規定により、罷免から60日以内に、新たな大統領を選ぶ必要があり、大統領候補者の擁立を巡って、野党、与党内の様々な動きがあるようだ。最大野党の、ともに民主党の文在寅(ムン・ジェイン)候補が優勢と言う。氏は、前回の選挙戦で、前大統領に惜敗しているようだ。
大統領選の投票日は、規定されている60日ギリギリの、5月9日にしたようだ。この日は、平日の火曜日だが、何と、国全体を臨時休日にするという。
又、北朝鮮は、5年目となる金正恩(キム・ジョンウン)総書記体制の下、核とミサイルの開発をすすめる一方で、クアラルンプール空港で、総書記の異母兄の金正男(キム・ジョンナム)氏が、公然と毒殺されるなど、極めて刺激的なニュースである。北朝鮮が、何をしでかすか分からない危険な時期だけに、韓国が揺れているのは、気がかりである。
当ブログでは、韓国関連では、これまで、下記記事
日韓外相会談―従軍慰安婦問題 (2016/1/4)
等で、何度か触れている。
本稿では、最近の状況について、筆者なりの印象を、簡単に述べることとしたい。
○ 今回の事件―操り人形
弾劾を妥当とした憲法裁判所の判決文では、前大統領には、どんな罪があるというのだろうか。また、知人の崔順実(チェ・スンシル)容疑者との関係はどうなのだろうか。詳細については、ここでは省略したい。
前大統領は、父親である朴正熙(パク・チョンヒ)大統領の娘として、外国に留学するなど、極めて良い環境で育っている良家のお嬢さんだが、若くして事件で母親を失い、その後、父親の朴正煕大統領も、暗殺事件で失うなど、極めて不幸な運命のようだ。
前大統領が、どんな経過で、大統領に選出されたのかは、未調査だが、親の七光も大きかったと思われ、当初は、ハンナラ党のジャンヌダルクなどと持ち上げられて、期待も大きかったようだ。(朴槿恵 - Wikipedia など)
こんな中で、崔容疑者が接近した様子は、TV等で、詳しく報道されており、操り人形になっていったようだ。世襲や七光りだけでは立ち行かない、政治の現実を見る思いだ。
国内では、彼女はこれまで、「初めての女性大統領」と称えられる一方で、「氷姫」などと揶揄されたが、今般、「初めて罷免された大統領」という、不名誉なあだ名も加わった。
○ 韓国の歴代大統領
1945年の世界大戦の終了後、北緯38度線を境に、南北に分断された朝鮮半島で、1948年に、アメリカの後押しで、半島の南に韓国が建国され、初代の、李承晩(イ・スンマン)大統領が誕生している。その後、1953年に朝鮮動乱が勃発し、大国を後ろ盾とした南北間で、熾烈な戦いが繰り広げられている。
その後、12年も続いた李大統領が交代したが、大雑把に韓国の政治史をみると、初期の数代は独裁的で、軍事政権やクーデターなどもあったようだ。在任期間が17年と居座った大統領もいる。
1987年に、第六共和国憲法が制定され、大統領の選出は、間接選挙から直接選挙となり、任期は五年で、再任を禁止することとなった。1988の選挙から、これが実行され、盧泰愚(ノ・テウ)新大統領が選ばれた。これで、国内の民主化が、一歩前進したとされ、以降、これが守られて現在に至っている。 概況を、下図に示す。(大統領 (大韓民国) - Wikipedia など)
代
大統領名
読み方
当時の日本での呼称
就任日
退任日
記事
1
2
3
李承晩
イ・スンマン
りしょうばん
1948.7.20
1979.10.26
多選可能な選挙制度に
李承晩ライン設定
許政臨時代行
4
尹潽善
ユン・ボソン
1960.8.13
1962.3.22
軍事クーデターで辞任
5
6
7
8
9
朴正煕
パク・チョンヒ ぼくせいき
1963.12.7
1979.10.26
軍政
日韓基本条約
暗殺
崔圭夏臨時代行
10
崔圭夏
チェ・ギュハ
1979.12.8
1980.8.16
粛軍クーデターで辞任
朴忠勲臨時代行
11
12
全斗煥
チョン・ドファン
ぜんとかん
1980.9.1
1988.2.24
粛軍クーデター
光州事件
第五・六共和国憲法制定
13
盧泰愚
ノ・テウ
1988.2.25
1993.2.24
金大中事件
ソウルオリンピック
14
金泳三
キム・ヨンサム
1993.2.25
1998.2.24
軍関係政治からの離脱
15
金大中
キム・デジュン きんだいちゅう
1998.2.25
2003.2.24
北との太陽政策
16
盧武鉉
ノ・ムヒョン
2003.2.25
2008.2.24
弾劾訴追で失職・復活
高建臨時代行
収賄疑惑で自殺
17
李明博
イ・ミョンバク
2008.2.25
2013.2.24
竹島上陸
18
朴槿恵
パク・クネ
2013.2.25
2017.3.10
従軍慰安婦問題日韓合意
弾劾で罷免
黄教安臨時代行
19
韓国では、初代以降、朴前大統領までで、まだ18人目とは驚きである。日本の首相は、第一次吉田内閣以降、現安部総理で、もう、32人目である。
でも、韓国では、政治的な独裁はなくなって、民主化が進められたものの、汚職がらみのスキャンダル等はいまも絶えないようで、前大統領も例外ではなかった。
地位や権力を利用して、我自身や身内の利益を図るというのは世の常だが、特に韓国ではこの傾向が強いようで、国民体質的な弱点だろうか。
歴代大統領それぞれの末路が、それを、雄弁に物語っているようだ。(韓国大統領歴代一覧と在任期間 なぜ暗殺や逮捕が多い?)
戦後の我が国でも、汚職スキャンダル等は無いわけではなく、田中角栄首相のロッキード事件が最たるものだが、悲惨な末路を辿ったという政治家の話は、あまり知らないところだ。
日本での、昭和40年頃の安保闘争や、昨年の安保法制騒動では、国論が2分したが、これらは、政治闘争で、ある意味、健全性を示している、とも言える。
それに対して、今回の韓国の騒動は、政治・思想闘争ではなく、汚職疑惑、情報漏洩疑惑など、かなり低レベルの問題で国内が紛糾しているわけで、韓国の若い諸君は、情けなさにうんざりしているのではないか!
○ 韓国の今後
次の大統領の選出に向けて動き出した韓国で、一日も早く、正常な政治と社会活動が回復するのを祈るばかりである。
前述のように、この所の北朝鮮の動きに目が離せず、韓国と、日・米・中等の連携した対応が重視される。
今後できる韓国新政府の対日姿勢の変化も、気になるところだが、抗議の意思表示で、一時帰国していた駐韓の長嶺大使が、今日、帰任したというニュースは、日本の積極的な姿勢を示すもので喜ばしいことだ。
従軍慰安婦問題など、後ろ向きの問題を早期に解決して、長年の隣国として、経済関係の回復や来年のピョンチャンオリンピックの成功などに向け、日韓が、大いに協調していきたいものである。
余談:
今回、韓国の歴代大統領の名前等を調べるなどしたが、呼び方が、なかなか、覚えられず、難渋した。
前出の大統領一覧表に、韓国式の呼称と、聞き慣れた日本式の呼称(特に、当時の)とを、一部併記している。
国際的には、人名や地名などの固有名詞は、次第に、現地住民が日常的に使っている呼称や表記法を使う、というルールに、少しづつ変わってきているだろうか。
しかし、韓国や中国に関しては、以前の日本時代の関係もあり、まだまだ、日本国内では、古い使い方も混在しているようで、特に、筆者に関する限りは、そうである。
でも、例えば、韓国の人名に関しては、日本国内では、呼称では、李は、りでなく、イとなり、朴は、ぼくでなく、パクとなる一方、表記では、漢字表記が全く無くなって、カタカナか、更には、ハングル文字になる日がやってくるのだろうか。