2014年5月20日(火) ウクライナ情勢の行方 2
ウクライナの騒乱については、先日、下記記事
ウクライナ情勢の行方 1 (2014/5/17)
を載せたところだが、今回はその続編で、コーカサス地方とロシア連邦について、民族自決や、自治を巡る紛争について触れる事としたい。
前記事で参照した情報の中に、ウクライナの東部2州の今後の方向を考える上で、現グルジア国内の、アブハジア共和国、南オセチア共和国のような形がモデルになる、とあった。 (【ウクライナ情勢】東部、3つのシナリオ 自治権拡大要求からロシアへの編入まで)
筆者には、残念ながら、これらに関する知識は殆ど無く、この地域一帯は、政治的にもややこしく複雑なので、敬遠してきたのだが、乗りかかった船、首を突っ込んでみることとし、改めて、関係の地域を調べてみた。
◎コーカサス地方
下図は、世界地図で良く見かけるお馴染の地域で、コーカサス地方(カフカス とも)と呼ばれ、東のカスピ海と西の黒海に挟まれた地域で、5642mもの高山もあるコーカサス山脈が東西に走る山岳地帯だ(山脈の長さは、約1200km)。
先だっての、ソチ冬季五輪でノルディック競技等が行われた場所も、このコーカサス山系の一部になる。
コーカサスの山岳地帯の山合いには、様々な言語、文化、宗教等をもった民族集団が複雑に入り組んで暮らしており、「地球上で最も民族的に多様な地域」と言われている。この事から、この地域では、これまで、幾多の騒乱も起こっているようだ。
このコーカサス山脈が国境となり、南側が、旧ソ連から独立した、上述のグルジア、アルメニア、アゼルバイジャンの3国、北側がロシア連邦となっている。
このコーカサス山脈は、アジアとヨーロッパの境界の一つでもある。
下図を頼りに、コーカサス地方の地域の状況について、以下に、簡単に見て見たい。(コーカサス - Wikipedia より)
太い赤線(筆者記入)がコーカサス山脈
◆コーカサス山脈の南側は、南コーカサス地方(ザカフカス とも)と言われ、3つの国がある訳だが、各国とも、内部に、事実上独立している共和国があったり、異なる民族の共和国を抱えたりしている。
○アゼルバイジャン国
アゼルバイジャン ナゴルノ・カラバフ共和国
面積 86.6千km2 4.4千km2(山梨県位)
人口人種 938万人 アゼリー人 14.6万人 大半がアルメニア人
言語 アゼルバイジャン語 ロシア語 アルメニア語
その他 アゼルバイジャンーアルメニア間で紛争中 事実上独立
○アルメニア国
アルメニア ナヒチェバン自治共和国
面積 29.8千km2 5.5km2(愛媛県位)
人口人種 310万人 アルメニア人 36.5万人
言語 アルメニア語 ロシア語 アゼルバイジャン語
その他 アゼルバイジャン領の自治共和国(飛地)
*ナヒチェバン自治共和国は、ソ連崩壊後のアルメニアの独立時は、大きな紛争は無かったようだが、ソ連時代のナゴルノ・カラバフ紛争時、アルメニア人を追放したようだ。(ナヒチェヴァン自治共和国 - Wikipedia)
*ナゴルノ・カラバフ共和国は隣国アルメニアの、ナヒチェバン自治共和国は隣国アゼルバイジャンの、相互に、飛地的な出先のようになっている。
○グルジア国
国内には、事実上独立国状態と言う、アブハジア共和国と南オセチア共和国があり、アジャリア共和国も抱えている。
・グルジア
面積 69.7千km2
人口 426万人 大半がグルジア人
言語 グルジア語 ロシア語
その他 ワイン生産 スターリンの出身地
・アブハジア共和国 (アブハジア - Wikipedia)
面積 8.6千km2 (広島県位)
人口人種 20〜25万人
言語 アブハズ語 ロシア語
政治 独立状態――ロシア他、数国が独立を承認
・南オセチア共和国 (南オセチア - Wikipedia)
面積 3.9千km2 (滋賀県位)
人口人種 5.5万人 大半がオセット人
言語 オセット語 ロシア語
政治 独立状態――ロシア他、数カ国が独立を承認
その他 ロシアの北オセチア共和国と対応
(ロシア革命後、南北オセチアに分断。ソ連崩壊でグルジア独立時、オセット州が消滅⇒復活)
・アジャリア自治共和国 (アジャリア自治共和国 - Wikipedia)
面積 2.9千km2 (佐賀県位)
人口 39万人 グルジア人と異なるアジャール人という
言語 グルジア語
政治 一時、独立の動きがあるも、現在は、自治共和国としてグルジアに帰属
その他 黒海に面するバトゥミ港はグルジアにとって重要
◆コーカサス山脈の北側(北コーカサス地方)は、ロシア連邦だ。前図にあるように、以下の様な地域になる。
・アディゲ共和国、カラチャイ・チェルケス共和国、カバルダ・バルカル共和国
北オセチア共和国、イングーシ共和国、チェチェン共和国、タゲスタン共和国
・クラスノダル地方、スタヴロポリ地方
この地域の共和国は、自治権が強い地域が多いのだが、ロシア連邦内(北カフカース連邦管区、南部連邦管区)に留まっている。
特に、チェチェンは、留まっていると言うより、無理やり押さえられていることから、紛争が続いている地域だろうか。
チェチェン共和国の概況は、以下のようだ。(チェチェン共和国 - Wikipedia)
面積 15.3千km2(岩手県位)
人口人種 110万人 大半がチェチェン人
言語 チェチェン語 ロシア語
本稿では、各共和国について、これ以上、個別に取り上げることは止めたい。
◎ ロシア連邦の地方行政組織
ここで、広大なロシア連邦内の、地方行政組織を見てみる。全体が、8つの連邦管区に分けられ、その下に、民族や地域に配慮した、以下の様な幾つかの行政(統治)形態があり、全体で、85に上る地方行政区域(連邦構成主体)があるようだ。これらが、下図に、色別に示されている。(ロシア - Wikipedia より)
通常の州(Oblasts) :灰色
共和国(Republics) :黄緑色
自治共和国(Autonomous obrugs/oblast)
:茶橙色/灰青色
地方(Krais) :薄茶色
連邦市(Federal cities)
:赤桃色
モスクワ周辺などの、ヨーロッパ側にある州(Oblast)の大きさは、日本の大きな県程で、常識的だ。一方、ウラル山脈の東のアジア側や、更にシベリア方面などは、行政区域が極めて広く、日本などと比べた場合、その巨大さに驚かされる。
上図の左下隅には、前述の、コーカサス地方の各共和国や地方が、示されている。
今回分ったことだが、改めて、驚いたことがある。先だって、ロシアは、ウクライナのクリミヤを、ロシアに編入したが、国際的な非難を尻目に、3月、早々と手回し良く、ロシア連邦内に、飛地となる9つ目の、クリミヤ連邦管区を新たに設定し、そこに、クリミヤ自治共和国と、セバストポリ連邦市を所属させているようだ。(上図には含まれていないがーーー)
より広大な領土だったソ連時代から、やや、スリムになった現在のロシア連邦ではある。 現在も、多様な民族等を抱えながら、連邦国家として纏めていく上での、上記のような、統治形態の工夫は見られるのだが、これとても、コントロールの限界を超えているように思える。
それにも関わらず、ウクライナを巡って、版図の拡大の動きなのである。
◎ 世界の紛争と対立
前稿で触れた、5/25に予定されている、ウクライナの大統領選挙の行方が、指し向き注目されるが、今朝(5/20)のニュースでは、ウクライナ東部では、選挙の実施は、混乱が予想され、危ぶまれているようだ。
今世界の各地で、数多くの紛争や対立が、同時並行的に進行しており、連日、関連のニュースが伝えられている。日本も、日中、日韓、日露問題など、例外ではない。
中でも、ウクライナを巡る紛争・騒乱は、今後の世界の方向にとって、極めて大きな影響を及ぼすこととなる、現時点で、最大級のもののように思われるのである。
今後、時間が許せば、各種紛争や対立について、自分なりの視点で整理して見たいと思っている。