2014年4月2日(水) ソチ 五輪パラ輪 総集編 2
本稿は、下記の続編となるものである。
ソチ 五輪パラ輪 総集編 1 (2014/3/29)
◎ 今回のキーワードは、「前評判」である。
スポーツだけに限ったことではないが、本人だけでなく周囲や観客から見ても、期待を込めて事前には大変評判はよいが、実際にやる段になると、前評判通りにはいかないというのが、世の常だ。このような視点で、幾つかの話題を取り上げたい。
◇女子スキージャンプ
まだ高校生で、最年少17歳の、女子ジャンパ−の高梨沙羅選手は、彗星のごとく現れ、小さな大ジャンパーと讃えられた。
オリンピック開会直前までは、各地のワールドカップ大会で優勝する等、前評判では、金メダルは絶体確実と、誰しも、本人も、そう思っていたのだ。
が、ソチの本番では思ったような結果を出せずに4位で、メダルには届かなかった。この種目は、今大会で初めて出来たもので、ノーマールヒルしかなく、彼女は、挽回する機会もなく、初代女王の名誉も得られずに、静かに会場を去っている。
そして、オリンピックの後、引き続きヨーロッパのスロベニア:プラニツァで行われた今季ワールドカップ最終大会では、なんと、あっさり、2季連続の総合優勝を決めるなど、幾つかの記録も塗り替えているようだ。
総合優勝のカップを手に(ネット画像より)
ソチでは、国民や世界注視の中、日の丸を背にして戦う、オリンピックの特別な雰囲気に、圧倒されたのかも知れない。オリンピックの前後は、歴史に残る驚異的な成績なのだが、不思議なことに、オリンピックだけ表彰台を逃しているようだ。
そして、つい先日、元気に帰国した沙羅ちゃんだ。帰国後のインタビューで本人は、悔しさを滲ませながらも、“メンタル面の弱さがあり、いい経験になった”、と素直な反省の弁である。本人の今後のためには、むしろ、無冠で、却って良かったかも知れない!
まだまだ若いだけに、今後の活躍を期待しよう。
◇男子スキージャンプ
ジャンプと言えば、男子の葛西紀明選手の活躍は特記事項だ。
16年前の長野大会では、怪我のため、団体金メダルメンバーから外れてしまった悔しさを胸に、粘り強く己を鍛えてきたようだ。ソチの直前のワールドカップ大会では、優勝するなどの実績もつくっている。
そして本番では、前評判での期待も受けて、最年長の41歳にして、堂々の、個人ジャンプノーマルヒルでの銀メダルである。
更に、若手を引っ張って、ラージヒル団体での、銅メダルも素晴らしいもので、往時の、ジャンプ日本の復活に繋がって欲しいものだ。
ラージヒル団体で銅(ネット画像)
日本選手団の主将も務めた葛西選手の、これまでの驚異的な粘りと、若手に伍して現役として戦ってきた活躍は、日本国内は勿論のこと、世界のおじさん連に、勇気と希望を与える嬉しいニュースだろう。
普通では考えられない出来ごとが起こると、往々にして、語り草となり、伝説(legend レジェンド)となって、最高の賛辞が贈られるのだが、今回の出来事は、レジェンドと言われるのに相応しい快挙であろう。
スキージャンプ最年少の高梨選手と、最年長の葛西選手が、同じ、北海道上川町の出身というのは、神様から授かった、何とも素晴らしいコンビネーションの妙だ。
◇ フィギュアスケート
層の厚さでは、これまでの最高と思われる、日本のフィギュアスケート陣だ。前評判は高かった。
前稿で触れた回転技だが、フィギュアスケートでの演技の中心となる回転技(ジャンプ)は、男子では4回転、女子では3回転がポイントだ。
*男子では、天性のシャープで綺麗なジャンプをする、弱冠19歳の羽生結絃選手だが、オリンピック男子シングルのショートプログラム(SP)では、綺麗に4回転を決め、史上最高得点を獲得したものの、続くフリー(FS)では、2度、転倒してしまった。でも、SPでの高得点も利いて、今大会での日本唯一の金メダルを獲得した。
本人は、ソチでのこの優勝だが、己の技の未熟さには不満だったようで、次のピョンチャンでは、何と、4回転半を完成させると公言している。(【フィギュアスケート】羽生結弦、4回転半ジャンプで連覇へ「史上初のものやりたい」)
羽生選手は、昨年暮れの、グランプリファイナルでも優勝している。また、ソチからの帰国後、先日、埼玉アリーナで行なわれたフィギュア世界選手権では、SPでは、トウループで失敗して3位だった。 でも、FSでは、SPの劣勢を跳ね返すほぼ完ぺきな演技で、僅少差だが、見事、逆転優勝した。 彼が、最も難しいと言われる、4回転サルコウを、公式戦で成功させたのは、今大会が初めてという。
この大会後の彼のインタビューでは、“意地で滑った”と言う言葉が印象に残ったのだが、オリンピックチャンピオンとしての意地だろうか。仙台出身者としての、被災地に対する思いだろうか。
若い羽生選手の、未来を見据えた覚悟に声援を送りたい。
意地?のジャンプ(ネット画像より)
また、ソチでは、5位だった町田選手は、埼玉では、4回転もこなす見事な演技で、僅差で羽生に敗れて銀になったが、日本勢が、1位、2位に輝いた。
一方、長らく、日本男子のフィギュアスケート界を引っ張ってきた高橋大輔選手だ。オリンピックでは、4回転ジャンプで失敗し、6位に終わっており、埼玉は、出場せず、小塚選手に代わっている。世代交代だろうか。
*女子の浅田真央選手だが、バンクーバー大会では銀メダルに終わった悔しさをバネに、4年かけて、基本からつくり直してきたのだが、今大会では、SPは精彩がなく、ジャンプも転倒するなど、16位と散々だった。
流石に、FSでは持ち直し、いい演技ができたものの、全体ではメダルには届かず、6位に終わった。
バンクーバーの金メダリストの韓国キムヨナ選手だが、その後の動静は、ワールドカップ等ではあまり聞かなかったのだが、昨年のロンドンでの世界選手権では、優勝しているようだ!
彼女は、ソチ大会には、韓国枠の一人として出場し、なんと、銀メダルである。真央ちゃんは、またしても、キムヨナ選手に負けてしまった。
浅田選手は、先日の埼玉大会では、SP、FSとも、転倒は無く、ほぼ完ぺきな演技で優勝し、通算で、世界選手権3個目の金メダルである。
埼玉では、浅田選手のライバルのキムヨナ選手は欠場し、又、リプニツカヤ選手が転倒する、等にも助けられた面はあるがーー。
世界選手権のフリーを終えて(ネット画像)
*スケートのジャンプは、見ていて、スキー競技のスノボーハーフパイプやスロープスタイルの様な危険性は、殆ど感じない。
でも、森さんの「失言」ではないが、必ずと言ってよいほど失敗して、転倒する光景を見せられるのには、正直、うんざりする。 何故、もっと、完成度が高く、自信の持てる技で演技しないのだろうか、と思ってしまう。
難しい技に挑戦し、高得点を狙うことには、声援を送りたいのだが、問題は完成度と失敗するリスクだ。
周囲や観客の、前評判や期待の中で、難度の高い技に挑戦する時に本人の感じるプレッシャーは相当なもので、メンタル面の要素もかなり大きいだろう。 このことは、スポーツの世界だけでなく、芸事などでも同じことが言える。
スピードスケートなどと異なり、フィギュアスケートは、スポーツの側面に加え、芸術の側面も持つユニークな競技だが、転倒するのでは?、とはらはらしながら見ていると、音楽に合わせた演技の優美さや、歯切れのいいリズム感溢れるステップ等の印象は、何処かに吹っ飛んでしまうのだ。
筆者としては、現状のフィギュスケートは、正直に言えば、余り見たくはない「スポーツ」なのである。
*先輩たちが完成させるのに苦労した難度の高い回転技等も、後を追う後輩たちが、次第にこなせるようになって行くのだろうが、これは、何故だろうか。技の解明が進み、練習法も明確になる一方、伝統という層の厚さで、選手や関係者同士のコミュニケーションが深くなるという事かもしれない。
羽生選手の言うように、次のピョンチャン大会では、
「ソチでは、男子は4回転、女子は3回転で苦労したんだっけ?」
などど、語り草になるのだろうか。