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Channel: つれづれの記
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きつね と たぬき

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2014年3月26日(水) きつね と たぬき

 

 

  先日20日のNHK−TV「あさイチ」の中のJAPAナビで、うまいもんの街 大阪の船場が登場した。 箱寿司の話題に続いて、きつねうどん の元祖と言われる老舗が出てきた。甘辛く煮た大きな油揚げが載っている うどんである。(きつねうどん発祥の店 松葉家 [うどん])

 番組の中では、うどんと一緒に、そばも注文されたが、上に載っている具は、うどんと同じだったことに、ナビゲーター役の勝村政信さんは、驚いたようだ。

 このテレビ番組を見て、大分前のことだが、筆者の職場が関西勤務となり、大阪に住んで、神戸に通った頃の、ある出来事を思い出した。その話を以下に記して見たい。 

 

 

  関東暮らしが長い自分にとって、関西での初めての生活が始まった時は、一種のカルチャーショックを味わった。

その一つが食い物の事で、大阪では、麺類の「きつね」と「たぬき」の呼称が、関東とは違っているようなので、大いに混乱したのである。 暫く生活する間に、次第に、きつね は、「うどん」のことで、同様に、たぬき は、「そば」のことだ、となんとか分って来たものの、どの様に違うのか、はっきりはしなかった。

 

 単身生活にも何とか慣れてきたある日、ワイフKが、東京から大阪に出てきた機会に、大阪市内を案内して廻った。

大阪の台所と言われる、日本橋界隈の黒門市場に行った時、丁度昼時になったので、とある食堂に入った。

注文する段になって、ものは試しと、単刀直入に、

     “きつね と たぬき”

とだけ言って、注文してみたのである。店の係の人は、なんの疑問も無い風で、調理場へオーダ−を取り次いでくれた。

 待つ間、一体どんなものが出て来るのか、興味津々であった。

 

 そして、程なくして、丼が二つ出てきたが、見た目は同じで、どちらも上に、麺が見えない程に大きな油揚げが載っているではないか!

そして、恐る恐る、具の下にある麺を引っ張り出して見ると、

      きつね は →うどん

      たぬき は →そば

であった。以下の画像は、残念ながら、当時の物ではなく、ネット画像より借用している。

  

           きつね                       たぬき 

 ほぼ予想していた通りだったので、この実地検証で、きつね と たぬき のもやもやが、一気に晴れた感じとなった。

後は、夫婦二人で、麺や載っている具材とネーミングの関係など、大阪の食い物について話題にしながら、美味しく昼食を頂いたことである。

 以来、ネーミングに関する、この種の話題が出ると、この時の経験談を、何度か、得意気に話したものだ。

 

 

 改めて、ネットで調べてみると、関東や関西や西日本での、麺の種類、トッピング具材の組合わせと、麺料理のネーミングの関係の違いが、細かに出てくる。

その中、東京と大阪での麺料理の呼称は、大まかに、下表のようになるようだ。  

 

               トッピング具材

煮た大きな油揚げ

刻んだ油揚げ

天かす(揚げ玉)

麺の種類

うどん

東京

△きつねうどん

きつねうどん

たぬきうどん

そば

△きつねそば

きつねそば

たぬきそば

うどん

大阪

きつね

きざみうどん

ハイカラうどん

そば

たぬき

きざみそば

ハイカラそば

           上段:東京での呼称

           下段:大阪での呼称

 

 上表にあるように、東京でのネーミングは、麺の種類(うどん/そば)毎に、トッピング具材(油揚げ/天かす)別に、

        油揚げ   → きつね

        天かす   → たぬき

と呼ぶようになっていて、合理的で分りやすい。

 大阪でも、トッピング具材が、刻んだ油揚げや天かす の場合は、

       刻んだ油揚げ → きざみ

         天かす   → ハイカラ

となるようで、これらを、麺の種類と組合わせた時のネーミングは、東京方式と同じようだ。 要は、大阪では、トッピング具材が、煮た大きな油揚げの時だけ、特殊なのである。 (きつねそば・たぬきうどん、なぜ大阪にはない?)kitsune) 

 

  大阪では、「きつね」(「けつね」のように聞こえる)といえば、うどん だけであり、通常は、きつねそばは無い。 

うどんの上に、煮た大きな油揚げを載せたものを、きつねと定義すると、うどんがそばに変わると、これが大阪では、何時の間にか、たぬきに化けてしまうようだ。

 

 反対に、大阪では、通常は、「たぬき」といえば、そば だけであり、たぬきうどんは無い。

そばの上に、煮た大きな油揚げを載せたものを、たぬきと定義すると、そばがうどんに変わると、これが大阪では、何時の間にか、きつねに化けてしまうようだ。

 言葉遊びではないが、きつね と たぬきの化かし合い、とでも言えようか。 

 大阪では、この場合だけ、ネーミング上、麺の種類とトッピング具材が、独立では無くなり、きつねは うどんの同義語、たぬきは そばの同義語として、殆ど通用するという、独特の面白い食文化が、今も根付いているようだ。

 

 大阪では、煮る事を、たく(炊く)と言うが、上述の油揚げは、甘辛く、よく、炊いてあり、格別の美味しさで、これが、大阪本来の、麺料理の具材だろうと思われる。

 でも、大阪でも、表のように、東京風を真似て(?)きざみ○○として、湯通しした刻んだ油揚げを使ったり、ハイカラ○○と冷やかし気味の呼称で、天かす もあるようだ。

 一方、表で、△印で示すように、東京でも、きつね○○として、煮た油揚げ(大阪よりかなり小振り?)が上に載ったものが出て来ることもある。

 

 もともと、うどんが主だったと思われる関西や大阪で、関東のそばを食べる習慣が、どのように広まって行ったのだろうか。また、これらと、きつね、たぬき、ハイカラ等の呼称が、どの様に関係し、語源はどうなのか、興味はあるのだが、これ以上は止めにしたい。

 

 うどん、そば、のネーミングはともかく、上に載せられているあの大きな油揚げに、大阪の食文化の奥深さの一端が、感じられることである。 


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