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くさやー2  においの感覚

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2013年12月18日(水)  くさやー2 においの感覚  

 

 先月、当ブログに、くさや に関する下記記事 

       くさやー1 臭い珍味 (2013/11/30) 

を掲載したが、そこでは、くさやの製法や、代表的な世界の臭い食品について述べている。

 

  前回取り上げた くさやは、我が国の、臭い食品の代表といえるが、大半の人は、臭いと敬遠し、珍味として好んで食べるのは、極く限られた人だけだろうか。

  先日、ある忘年会の席で、男女5人の年配者に聞いたところ、食べたことがあるのは、1人だけだったというのは、やや驚きであった。 酒好きだが、くさや のにおいが嫌いな、ある男性。 釣り好きの彼が、伊豆方面に釣りに行くと良く釣れる むろあじ は、普通に食べたら、余りおいしくないという。 “だから、くさやになっているのだ” とケチが付いたことだ。

 くさやは、味は悪くないのだが、あの、においが駄目、と言う事のようだ。料理や食べ物は、味だけでなく、におい(かおり)や、配色(見た目)も重要なのは言うまでも無い。

  今回は、前稿の続編で、人間の五感の中の嗅覚に関する話題をとりあげてみた。 

 

○  五感と嗅覚

 人間の五感の中で、感知する対象が、視覚(目)では光(光波)、聴覚(耳)では音(音波)と、かなり限られた物理現象なので、比較的扱いやすく、解明も進んでいるのは、言うまでも無いことだ。 

 これに対し、味覚(舌)、嗅覚(鼻)では、食物内や空気中に含まれる物質と、生体との間の化学的な反応を生理現象として感知する、という事で、感知する物質が多種多様な上、仕組みもかなり複雑なようで、未解明の領域も多いようだ。 

 この中で味覚に関しては、当ブログでも、生理的な仕組みでなく、味わう楽しみとしては、何度も取り上げて来ているところだ。

 最近では、「旨み」(umami)が国際的に認知されたり、「日本食」が世界無形文化遺産に登録される等のニュースがあり、これらについては、稿を改めて取り上げる事としたい。

 一方、嗅覚に関しては、日頃、馴染が薄いので、関心を持つことも少ないのだが、初めて記事にした前回の くさや の延長上で、この機会に、今回と次回に分けて、においの感覚に関する話題を取り上げてみる事としたものだ。 

 

○ 嗅覚に関する言葉

 日本語には、嗅覚に関連する幾つかの言葉があり、以下、やや、冗長になるが、改めて、これらを確認してみた。 

 嗅覚に関する言葉の中では、中立的なものと、感覚の良し悪しを表すものとがあるようだ。一方、文字で表すと、ひらがなでは中立的だが、漢字にすると、良し悪しに分れる場合が多い。 

 幾つかの日本語の言葉を、「悪い―中立―良い」軸に、左右に並べて見た。 (n名詞 v動詞(自動詞vi 他動詞vt)a形容詞)   

悪い ――――――――― 中立 ―――――――――――良い

臭(にお)い           においn               匂い

  嫌な臭(にお)い                            好きな匂い   

  不快な臭い                               心地よい匂い     

  悪いにおい                               良い匂い 

  臭(くさ)いにおい 

臭(にお)う              におうvi                        匂う 

  トイレが臭う                               花が匂う

*上例のように、ひらがなの、「におい」「におう」は中立的だが、漢字で表した、「匂(にお)い」、「匂う」は良い意味、「臭(にお)い」「臭う」は悪い意味で使われることが多い。

この事から

   心地よい臭い  花が臭う     不快な匂い  トイレが匂う    

等の表記は、混乱するので、一般的には使われない。

 

 又、におい の形容詞は見当たらないので、

   におい花  においゴミ箱

とは言わず、

   良くにおう花  変ににおうゴミ箱

などと言うことになるだろうか。

 

悪い ――――――――― 中立 ――――――――――― 良い

  臭(くさ)いかおり            かおりn            香り 薫り

  嫌なかおり                                  良いかおり 芳香                         

―                            かおるiv      香る 薫る 

                                           若葉が香る 菊薫る 

*「かおり」は、中立的だが、やや良い側で、 「かおる」は、殆ど、よい側だろう。

かおりの形容詞も見つからないが、かおるを使って、においと類似の表現が出来ようか。

            

悪い ――――――――― 中立 ――――――――――― 良い

嗅ぐ                かぐ vt                嗅ぐ 

嗅覚(臭覚)       きゅうかく・しゅうかくn           嗅覚(臭覚)

*動詞の「かぐ」は、本来は中立的な言葉だが、

       においを嗅ぐ

       かおりを嗅ぐ

は、やや品のない表現で、鼻を鳴らして嗅ぐ光景などが連想される。代わる言葉としては、

       においを確かめる

       かおりを調べる

などがいいだろうか。

  熟語では、「嗅覚」は、五感を表す中立的な言葉だろう。又、あまり使われないが、臭覚も、臭(にお)いを感じる感覚ということだが、やや、悪いにおいを感じ取る感覚、との印象がある。

 

悪い ――――――――― 中立 ――――――――――― 良い        

臭い   くさい a        ―                  −

  臭いトイレ

  臭気

臭味   くさみ n       ―                  ―  

*「くさい」、「くさみ」は、殆ど悪い側である。先述のように、「におい」「かおり」の形容詞は見当たらないのだが、くさいは、悪い側の代表的な形容詞だろう。

 

** 今回、少し分ったことだが、鼻の感覚に関しては、中立的な意味では、「におい」、「嗅覚」とするのがよさそうである。 そして、感覚の良し悪しを言う場合は、ひらがな と漢字とを、注意しながら使い分ける必要があるようだ。

  この領域で、日本語以外で、例えば、英語やフランス語では、どのような言い方をしているのか、機会があれば調べてみたいものだ。

 

○ 発酵と腐敗

 臭い珍味と言われる食品群は、一括りすれば、発酵食品の仲間となるようだ。これらの食品をつくりだす「発酵」と、物が悪くなる「腐敗」とは、どう違うのだろうか。

 食物(有機物)は、自然界の中で、物理的に風化したり、紫外線で劣化することに加え、各種微生物によって分解されるなどして、いずれ、元の無機物に戻ることとなる。 関連する微生物によって色々な分解が行われる途中の段階の一つが発酵で、腐る一歩手前、とも言えるのだろうか、最終的には、腐敗へと進む事となる。

 大雑把には、糖が分解されるのが発酵で、たんぱく質が分解されるのが腐敗、と言われことがあるが、このような分解前の物質の違いではなく、以下のように、社会との関連で便意的に区分するのが、一般的なようだ。(腐敗 - Wikipedia) 

●人間社会に益を齎すものが、総じて発酵と言われ、においの面から見ると、発酵には、良いにおいが多い。 

  人類の長い歴史の中で、各種の発酵技術、醸造技術が、発見、工夫、蓄積されて来ている訳だ。この中には、調味料などの通常の食品の発酵から、前稿の、臭い珍味のような、独特の発酵まで、色々である。

これらが生かされた食文化は、極めて重要な分野の一つとなっていると言えるであろう。地域や文化の違いや、個人の好みによっては、発酵食品が、腐敗物と見られることも、当然起こり得ることだ。

 

● 一方、人間社会に害毒を齎すものが、総じて腐敗と言われ、においの面から見ると、腐敗には、嫌なにおいが多い。

  腐敗によっては、食中毒事件も引き起こされるのだが、生活の安全上で危険となる情報を、真っ先に識別する五感が、耳と鼻とも言われる。魚や野菜の鮮度を、腐ったにおいの有無で判別したり、ガス漏れを においで感知する、等は、身近に経験する事だ。 

  数年前、BSEや、口蹄疫や、鳥インフレエンザが発生した時は、大きな社会問題となったが、多くの牛や鶏が処分されることとなり、土中に埋められた。これらの動物の死骸は、時間の経過によって、土の中で腐敗(自然界の微生物が分解)することで、いやなにおいや腐敗臭も、いずれ消失してしまい、土に還る訳だ。

 やや大げさな言い方をすれば、自然界の動植物すべてが、大きなリサイクルの輪(物質循環過程)の中に組み込まれている、という意味では、腐敗は、極めて重要で、無くてはならない有り難い過程である、と言えるであろうか。 

 

 次稿では、簡単な嗅覚の仕組みや、においに関する仕事、等について触れる予定である。


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