2013年6月13日(木) 富士山を巡ってー締めくくりに
世界文化遺産への登録が、ほぼ確実となった富士山について、当ブログではこれまで、
?富士山を巡ってーUTMF (2013/5/10)
?富士山を巡ってー世界自然遺産として (2013/5/15)
?富士山を巡ってー世界文化遺産に登録へ その1 (2013/5/20)
?富士山を巡ってー忍野八海で寄り道 (2013/5/22)
?富士山を巡ってー世界文化遺産に登録へ その2 (2013/5/29)
?富士山を巡ってー田子の浦で一休み (2013/5/30)
?富士山を巡ってー富士登山の思い出 (2013/6/07)
の記事を投稿して来た。 今回で、これまでの全体の、締めくくりとしたい。
上記の記事?〜?について、以下で、言及している箇所がある。
○世界遺産委員会
来週の6/17〜27の間、カンボジアの首都プノンペンで、ユネスコの第37回世界遺産委員会が開催され、登録案件などが審議されるようだ。情報では、今回の審議対象案件数は、36件と言われる。
この中で、日本は、当初は、富士山と鎌倉の2件を申請していたが、鎌倉については、イコモスからの不適当との意見を受けて、今後に登録の余地を残すため、申請を取り下げとしたことで、富士山だけとなっている。
富士山が審議される日程は、 情報では、6/21〜23頃と言われており、実現すれば、日本としては、17件目の世界遺産登録となる。
世界遺産に登録する目的や狙いについては、改めて言うまでもないのだが、
“世界中の自然で文化的な多様性を保護し合うこと”
が目的で、下図のエンブレムのデザインの意味は、
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Clik here to view. 世界遺産のエンブレム
“中央の正方形は人類の文明とインスピレーションの賜物を象徴します。一方、外側の円は自然の贈り物を祝っています。このエンブレムは、世界のように丸く、そして、すべての人類の遺産を世界で保護する象徴です。”
という。(世界遺産とは?|日本の世界遺産.com)
○富士山のこと
世界遺産に登録することで、本音では、観光や地域振興のために、沢山の人に来て貰いたいのだが、建前では、人類の遺産として、大事に保護・保存していく責務を負う訳で、規制的な側面が強くなることを覚悟することでもある。
特に自然遺産に関してはそうだ。 既に登録されている、知床や屋久島では、来訪者による、環境汚染や自然破壊が大きな問題となっているという。
富士山の場合、?の記事で触れたが、当初の自然遺産としての登録を諦め、文化遺産として登録する方向に変え、関係者の努力で、何とか、見通しが出来てここまで来ている。
富士山を、自然遺産として登録するに当たって、自然や動植物の多様性が少ない、開発が進行している、等の問題に加え、障害となったのが、ゴミやし尿処理の問題と言われた。でも、その後、この件はどうなったのかは、曖昧である。今回の文化遺産の場合は、まさか、問題にはならない、筈はないがーーー。
文化遺産や自然遺産を、経済原則で支配される社会の動きのままに委ねれば、遺産として守って行けないことは経験的に分っていることで、このために、かなりの規制や、保護が必要になる訳だ。国宝や重要文化財でも同じことだ。
登録されれば、来訪者や登山者が更に増えるのは目に見えており、それを押さえるために、?の記事でも触れたが、入山規制を強化したり、入山料を徴収することも、検討中という。
この結果、当然、抑制効果で、来訪者が想定よりも減ることになるだろうが、地元の観光関連業界としては、この事を懸念しているようだ。
環境や自然の保護と、観光や地域の振興という、ジレンマをどの様に調和させていくかは、避けては通れない課題である。
富士山の今回の登録の中で、三保の松原に付いて、舞台裏で、その後、どのようなやりとりが行われているかは分らない。今回の登録で、三保の松原が含まれればラッキーだが、含まれないことは、ほぼ間違いないだろうと思われる。
?の記事で触れたように、距離が離れていることや防波堤など、表面的な理由だけでなく、景観自体を構成資産にする事には、やや無理があるように思われるのだ。
今回は、これで了とし、次の機会を待つことが考えられる。この場合、三保の松原を、復活・追加する手もあるが、?の記事で触れたように、富士山周辺の他の地域からの景観全体を、例えば、富士50景などとして登録する方法は無いだろうか。或いは、著名な浮世絵とセットで扱うことは出来ないだろうか。
?の記事で触れたが、ニュージーランドでは、富士山に似て美しいナウルホエ山のあるトンガリロ国立公園全体が、当初、自然遺産で登録され、その後、先住民の遺跡などの遺産を加えて、複合遺産として拡張したようだ。この例のように、富士山の場合も、富士箱根国立公園全体として、自然遺産を追加しながら、複合遺産として登録することなどは出来ないものだろうか。
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Clik here to view. 富士山とスカイツリー(ネット画像)
○世界遺産と日本
国連のユネスコに、この世界遺産の登録システムが出来て、2012年で、40年になるようだが(日本が締約国になって、まだ20年ほど)、昨年の世界遺産委員会終了後の登録件数は、
文化遺産 745件
自然遺産 188件
複合遺産 29件 合計962件
となっており、かなりの数に上っているようだ。(世界遺産 - Wikipedia)
委員会は、毎年開催されるが、今回で、更に、数十件が新たに追加されることとなろう。
登録されている件数を、国別で見ると、地域的な偏りが大きく、圧倒的に、欧州地域が多いようだ。欧州勢の御手盛りだ、という批判もあろうし、色んな理由もあるだろうが、歴史や文化の膨大な蓄積がある欧州が多いのは、ある意味、当然とも言える。
最新の件数では、イタリア47、スペイン44、中国43、フランス38、ドイツ37
などとなっている。
この中で、文明の発祥地の一つと言われる中国が多いのは当然だが、欧州よりも古い、その他の多くの地域では、歴史的に、欧州列強に征服されて文明を失ったり、後進となった地域では、維持する体制や費用が出せず、記録や遺産が、放置されて破損したり、政情不安から、貴重な遺産が破壊される、などという、悲しい現実もある。
遺産を持ち、守っていること自体が、安定した文明・文化の証しである、と言えるかも知れない。
ユネスコでは、破損したり破壊された遺産の修復も、重要な課題として取り組んでいるが、登録後の変更や、登録の取り消しなどもあるようで、これらは嬉しい話ではない。
日本国内では、今後の世界遺産登録に向けた、「国内暫定リスト」があり、富士山や鎌倉を含め、現在は、以下の地域・案件がリストアップされているようだ。ここには、新規の案件だけでなく、既登録案件の拡張もあるようだ。(日本にあるユネスコ世界遺産・国内暫定リスト)
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Clik here to view.
これらは、いずれも日本民族の歴史や、日本での文明・文化の変遷を伝えるものとして、重要なものだが、今や、単に、登録して数を増やせばいい、というものではないだろう。
今回見送りとなった鎌倉を含めて、あくまでも、世界全体の歴史の中で、どの点に普遍的な価値があるか、何処に地域特性から来る独自性があるか、と言った視点が問われることとなるのだろう。
日本人にとっての、美意識の代表の一つでもあり、精神的な象徴でもある富士山だが、自然遺産としての登録を諦めざるを得なかった苦境を乗り越え、今回、富士山が、我が国として漸くにして、17番目の世界遺産になる予定だけに、感慨深いものがある。
世界遺産登録に関する、これまでの最大の出来事、と言っても過言ではないだろう。
自分にとって今回の話題は、改めて、富士山を見直し、世界遺産の意味を考え、保護と地域振興の両立を考える、一つの機会になったようである。