2019年3月2日(土) 虐待とハラスメント 1
最近は、虐待、ハラスメント、いじめなどの話題がよく、テレビに登場している。大きな社会的問題であり、被害当事者にとっては、極めて深刻な事態とは理解できても、またか、もううんざりだ、という印象も否めない。
社会現象化している状況について論評することは専門家に任せることとして、一社会人としての率直な印象を、言葉を主にして取り上げてみた。 ただ、小中高校などの「いじめ」に関しては、テーマが大きく整理が難しいので、今回は見送ることとした。
◇ 虐待
虐待の虐の字は、虎の字と同じ「とらかんむり」 の下に、カタカナのヨを裏返した様な字体 が加わるが、手持ちの古い漢和辞典(新修漢和大辞典(S29)博友社)では、現在と異なり、真ん中の横棒が、左に突き出している難しい字だ。
この漢和辞典では、虐の字義としては、
虐:ソコナフ(損なう) シヘタグ(虐たぐ) むごくする(惨くする)
とある。
●虐という漢字を使った熟語を見てみる。
*虐が先(上)にくる熟語:
虐待
むごく人をつかふ 無慈悲に人をつかふ てあらいつかひかた
(上記漢和辞典より 虐使、逆遇も同義とある)
むごく取り扱うこと 残酷な待遇 (広辞苑第7版)
虐待という言葉には、力の上のものが、下のものを手荒く、酷く扱う状況がある。「いじめ」などよりも、格段に「強烈な語感」があり、漢語らしい言葉と言える。
虐待に当たる、英語は :abuse v 濫用する(地位、特権などを) n 濫用
ab-は接頭語で、離脱(離れる)の意という。したがって、
ab+use 誤った使い方
ab+nomal 通常と異なる→異常な
最近、以下の四字熟語はよく使われるが、力の弱い存在(児童、女性、動物)に対する、力の強い側の、力の濫用である。
児童虐待 child abuse
性的虐待 sexual abuse
動物虐待 animal abuse
虐殺 むごたらしい手段で殺すこと
大量虐殺(ナチスによる、ユダヤ人のホロコースト)
虐政 人民を苦しめしいたげる政治(苛政)
*虐が後(下)にくる熟語
加虐・被虐・自虐 (主体と客体の関係)→次項
暴虐
残虐
陵虐
◇ サド・マゾ
心理学の分野や、社会生活一般では、サド、マゾといった用語が、時々出てくる。
サド:サディズムの略称 saddizm 加虐性向 嗜虐性向
サディスト 〃 saddisst 加虐性向者
マゾ:マゾヒズム 〃 mazohizm 被虐性向
マゾヒスト 〃 mazohist 被虐性向者
能動的に、対象を困らせ、虐めることで喜びを感じる性向がサドで、ここでの虐は、前項と同義である。
逆に、受身的に対象に虐められて喜びを感じる性向を、マゾというようだ。
総じていえば、普通の人間には、男性には加虐性向、女性には被虐性向があるといわれるが、個人差は大きいと言えよう。
この傾向が強く、特に、性の分野で度を超すと、
異常性欲 abnormal sexuality
性的倒錯 paraphilia
となるようだ。
◇ 暴力
反社会的な団体として、現代にも、暴力団があることは周知のことだ。
一方、相撲界や学校の運動部での、暴力行為が最近も大きな問題となっていることで、当ブログでも、何度か取り上げてきている。
ここでは、最も身近な,DV:Domestic Violence のことを取り上げたい。
DVとは、家庭内暴力のことで、夫婦間、親子間などの、親密な関係にある人による暴力のことである。(広辞苑 第7版)
後述の野田市の少女殺害事件は、父親が子供や妻に対して行使した暴力が問題となった児童虐待で、DVの典型と言えよう。父親は子供への躾(しつけ)と言っているようだがーー。
躾とDVとの境界が問題で、叩かれた子供の痣が見えないようにしたり、世間体から学校を休ませていたようだ。母親は、娘を庇うと、夫(娘の父親)に自分がやられるのを恐れて、暴力を止められなかったというが、警察は、止めなかった母親も逮捕している。何とも言えない、悲しい事件だ。
事件発生までの、関連機関の動きについては、次稿で述べる。
◇ハラスメント
職場では、ハラスメントという言葉がすっかり定着していて、セクハラ、パワハラが話題となる。ハラスメントの語源は英語で、
harass: v 困らせる 悩ませる
harassment: n 悩ませる(/される)こと 嫌がらせ(ること)
これが、職場や組織内で表面化すると、
セクシャルハラスメント:sexual harassment 略称:セクハラ
性的な嫌がらせ(行為や言葉)
パワーハラスメント:power harassment 略称:パワハラ
地位や立場を利用した嫌がらせ(処遇や暴力行為)
となる。ハラスメントの手段としては、脅迫 暴力行為 暴言(口の暴力)などがある。
一昨年の2017年秋、アメリカの映画界で、映画監督によるハリウッド女優へのセクハラ行為が大きな社会問題となり、これまで泣き寝入りしていた女優たちが立ち上がり、ミートゥ運動(#MeToo わたくしも)として、アメリカ国内だけでなく、世界的に広がったのは、記憶に新しい。
この動きは、セクハラだけでなく、社会的に存在する差別に対する共感と、アピールの現れであろうか。
次稿では、野田事件での関連機関の動きと、アメリカでの聖職者による性的虐待事件を取り上げることと、したい。