2017年12月20日(水) エルサレム問題
この12月6日、アメリカのトランプ大統領が、イスラエルの首都はエルサレムとし、アメリカ大使館を、現在のテルアビブから、エルサレムに移す、と発表したことで、世界中が騒々しくなっている。 イスラム諸国だけでなく、EU諸国等もアメリカを批判しており、唯一、イスラエルだけが大歓迎しているようだ。
このことは、昨年の大統領選中も言っていたことだが、何と、20年以上遡る、3代前のカーター大統領(民主)の時の1995年に、イスラエルのアメリカ大使館をエルサレムに移すと連邦法で決めていたという。でも、世界情勢に鑑み、半年ごとの判断で、これを実行しないまま、今日まで引き延ばしてきたようだ。トランプ大統領にしてみれば、既定路線を実行したまでだ、ということだろうか。
◇パレスチナ問題
中東のパレスチナの地に、ユダヤ人の国家として、1948年にイスラエルが建国されたが、以来、数次に亘る中東戦争を通じて、パレスチナ地域の領有や境界が目まぐるしく変化してきている。
イスラエルは、1980年には、エルサレムを首都と宣言しているようだが、国連は、エルサレムを首都とは認めておらず、テルアビブが実質の首都となっている。各国は、テルアビブを事実上のイスラエルの首都とみて、大使館等を置いている。
一方、ヨルダン川西岸地区とガザ地区を統治しているパレスチナ自治政府は、エルサレムは、将来の首都だと主張しているようだが、現在は、ラマラ(ラマッラー)に政府を置いている。(下図) 図中に、エルサレム、テルアビブ、ラマッラーを、オレンジ色の○で表示。
パレスチナ問題は、エルサレムを国連の管理下に置くことで、イスラエルとパレスチナ自治政府間で、辛うじてバランスを保ってきた、と言えるだろうか。
この辺の状況については、当ブログの、下記記事で取り上げている。
世界遺産:米国のユネスコ脱退 (2017/10/21)
(ネット画像)
◇ エルサレム問題
今回のトランプ大統領の発表は、エルサレムと言う、具体的な地名を挙げたことで、パレスチナ問題が改めてクローズアップされた形だ。筆者は、この地域には行ったことは無いのだが、これを、仮に、エルサレム問題と呼ぶこととしたい。
* エルサレム市
エルサレム市は、形の上では、ヨルダン川西岸地域のイスラエルとの境界にあり、領有・帰属がはっきりしないため、現在、国連の管理下に置かれている。(前述)
筆者には詳細は不明だが、これまでの過程で、エルサレムは、東西に分割され、西エルサレムはイスラエル側、東エルサレムはパレスチナ側となったようだが、力に勝るイスラエルは、東側への入植を進めている一方、イスラエルが、東西エルサレム全域の治安警察権を掌握して、実効支配しているようだ。
データは不十分だが、エルサレム市の規模は以下のようだ。(エルサレム - Wikipedia など参照)
面積 125.1 km2 参考:山手線内は65km2
東、西の広さは不明
人口 85.7 万人(2015) 東エルサレム 25.5万人(2014)
西エルサレム 新市街が広がる中心街
東エルサレムと西エルサレムの境界にある、城壁に囲まれた旧市街区域が、双方で譲れない重要な地域のようだ。(下図 ネット画像)
ここには、図のように、
ユダヤ教 嘆きの壁(太古、図の神殿の丘周辺にあったという、ユダヤ教のエルサレム神殿は壊されたが、神殿の周囲を囲んでい
た壁の西側壁だけが、往時のまま現存しているという)
キリスト教 聖墳墓教会(教祖イエスが磔にされたゴルゴダの丘の場所と言われ、埋葬され、復活したと言われる第1の聖地)
イスラム教 岩のドーム(教祖ムハンマド(マホメット)が昇天した岩 他の2教とも関連)
アクサーモスク(教祖が、メッカから一夜で飛来したという、イスラム教第3の聖地)
3つの宗教の聖地があり、旧市街地は、上図のように4つの地区に分けられていて、それぞれの教徒が、各地区を管理していると言う。(図中の空白地区は、アルメニア人地区。 次図参照)
旧市街の、やや詳しい地図を以下に示す。(図はネット画像)
旧市街地域の広さは、0.9km2 (90ha*)と狭く、人口は32000人ほどで、70%がイスラム教徒という。(*比較のため:新宿御苑58ha)
*今後の方向
今般のトランプ大統領の表明に関連して、ペンス副大統領が、エジプトとイスラエルを訪問(12/19~)し、理解を求める予定だったのだが、米国議会での、税制改革法案の採決の関連から、急遽、来年(1/15~)に延期したようだ。
これは、先日のアラバマ州の上院の補選で、共和党候補が民主党候補に敗れたことで、上院での議席数がぎりぎりまで切迫し、状況によっては、副大統領が賛成票を投じる必要性が出てきた、というのが延期の理由という。 現大統領になって、議会を通って成立した重要法案がまだ1本もない、と言われるが、信じられない状況だ。
大使館の移転は、諸準備があり、実行できるのは数年先と言われるが、世界の反発をよそに、アメリカが、大使館をエルサレムに移すとしたら、どの場所に移すのだろうか。いくらなんでも、旧市街地域の中とは考えられず、西エルサレムだろうか。
政治と宗教が絡む、とびっきりの難題であるパレスチナ問題(エルサレム問題)に、世界の問題児 トランプ大統領が、首を突っ込んでしまったことで、中東情勢や今後のアメリカの方向が、より、不透明になってきた、と言えよう。