2013年8月1日(木) スペイン高速鉄道の事故
日本スペイン交流400周年 に関する当ブログの記事も、その1 から始まって、その8 までで、先日、終了したばかりだが、そんな中、スペインの高速鉄道(AVE)で、7月24日に、マドリード発フェロル行きの電車が、サンチアゴ駅の手前で脱線転覆するという大事故が発生した。
事故の規模としては、死者79人、負傷者153人という大変なものだ。しかも、事故現場が、スペイン北西部の著名な街、サンチアゴ・デ・コンポステーラ近郊と聞いて、またまた、驚かされた。
この都市のことは、最近になって知ったのだが、当ブログのスペインシリーズ記事の、その5(2013/7/11)でも触れているように、世界の3大巡礼地の一つと言われている、キリスト教の聖地だ。 毎年、世界中から、特に、フランスやスペインからの、多くの巡礼者が絶えない、と言われている。
事故が発生した翌日には、聖ヤコブの日という、この地の由緒ある大聖堂でのイベントがあったようだ。 事故のニュースを初めて耳にした時、咄嗟に、多くの巡礼者が犠牲になったのではないか、と思った。でも、落ち着いて考えると、巡礼者は徒歩や自動車が多いのだ、と分り、今回の事故は、大きな影響は無かったようである。
現地に据えられている監視カメラの、公開された映像で、カーブで列車が転覆する様子が、何度となくテレビで放映された。
転覆の瞬間
この区間の制限速度は80km/hだが、実際は、153km/h程の速度で運転されていたようだ。 しかも、列車の速度を自動的に制御する、ATCは設置されていなかったという。
この列車事故で思い出すのは、8年前の4月に、JR福知山線で起きた脱線事故である。福知山線の場合は、制限速度70〜80km/hの区間を、108km/hで運転していた、とあり、ATSは設置されていたものの旧形だったため作動しなかったようだ。(コラム JR福知山線脱線事故の疑問)
一命をとりとめたスペインの運転手は、常習的に、スピード超過を行っていたようで、仲間に、スピードを自慢していたとも言われる。
福知山線の場合と同じ様に、ダイヤを維持するために、厳しい労働条件を強いられていたこともあったのだろうか。
テレビの報道だが、転覆の瞬間の動画を観た或る専門家は、先頭車両でなく、2両目から先に脱輪した、と指摘したのが注目された。 この2両目は、交直両用区間を走行出来るように改造した電源車で、車両の重心が高くなっていて、速度との関連から、カーブで不安定になったのでは、と言う。他の情報では、軌間を可変にする機能も付いていたとも言う。
今後、事故原因の調査と分析が、どのように進められ、どのように公表されるかは、はっきりしないが、2年前に起きた、中国での高速鉄道事故のように、隠蔽主義で、うやむやにされるのだけは、して欲しくない所だ。
スペインの高速鉄道網の整備状況については、十分な情報は入手出来ていないが、やや古いものだが、或る時点での整備状況と導入計画は下図の様である。図中、点線で示してある、マドリードからサンチアゴなどの、工事中の路線も、現在は、開通しているものと想定される。(AVE - Wikipedia)
スペイン高速鉄道網(AVE)
スペインの高速鉄道網に導入されている技術やシステムは、初期、フランスのTGVの車両技術や、ドイツの高速鉄道の軌道・信号システムが導入され、それに国産の技術も合わせた、複合的なものの様で、言わば、寄り合い所帯である。
国内の鉄道の電化の歴史との関連もあり、これらの各種技術やシステムに習熟し、使いこなしていくのは容易なことではないだろう。
今回の事故で、ATS未設置の区間で、改造している電源車から脱線したようだ、と言うのは、新旧の切り替えを行いながら、システムを整備していくことの難しさを感じざるを得ない。
中国やスペインの列車事故を思う時、日本の新幹線の場合は、日本だけのホモジニアスなシステムだから安心・安全だ、などと気を許してはいけないだろう。
我が国も、特に、明治以降、多くの分野で、西洋の先進技術を学び・取り入れ、その過程を経て、今や、自動車や、造船や、鉄道やその他の分野では追いつき・追い越して最先端には成ったが、でも、宇宙・航空技術、防衛システム、IT技術、遺伝子関連等では、やはり、先進技術を習得し、使いこなしていく必要があるのは言うまでも無い。