2018年8月13日(月) いろはかるた アラカルト 続々々
この所、当ブログに
①いろはかるた (2018/7/1)
②いろはかるた アラカルト (2018/7/6)
③いろはかるた アラカルト 続 (2018/7/16)
④いろはかるた アラカルト 続々 (2018/8/5)
を投稿している。
①では、いろはかるたの概略に触れた後、江戸いろはかるたについて、自分で思い出せるものをリストアップしてみた。
②では、江戸いろはかるたで、意味の良く解らないものなどを取り上げている。
③では、筆者の好きなかるたを幾つか取り上げた。
④では、余り好きでないかるたを取り上げた。
今回は、アラカルトシリーズの最後として、残された話題の幾つかを取り上げた。
◇ 余り好きでないかるた
前稿の続きで、余り好きでないかるた(同意しかねる諺)を取り上げる。
●子は三界の首枷
この諺の解説では、親というものは、子供のことにとらわれて、一生自由を束縛されることの喩、とある。
我が子は可愛いもので、動物の世界でも、生んだ子のことで、親は気の休まる時が無いのもその通りだ。 でも、子供の面倒を見る親には、一方で、子育ての喜びもある訳だが、喩とはいえ、子供は親の首枷というのは、やや一面的で、余りに強烈な表現なのが気に入らないのだ。
◇三界と三世と
*ここで、三界について改めて調べてみた。「三界」とは、以前には良く使われた言葉のようで、この諺では、「この世」、位の軽い意味だろうが、原意は筆者には良く解っていない。
手持ちの「広辞苑」第7版によれば、三界とは、仏教の概念で、輪廻が繰り返される中で、以下の三種の世界を表していて、一切衆生は、このいずれかに属しているという。
欲界 :(最も基本的な世界) 性欲、食欲を持つ衆生が棲む世界
色界 :(欲界の上の世界) 欲望からは離れているが物質的存在(色)に束縛されている衆生の世界
無色界:(色界の上の世界) 肉体・物質の束縛を離脱し、四蘊(しうん)(受じゅ 想そう 行ぎょう 識しき)だけがある世界
大半の衆生が棲むと思われる欲界、色界は理解できるのだが、無色界には、どのような衆生が棲むのかが良く解らない。
一方、衆生が生まれる(棲む)状態は、以下の「六道」といわれる。
天道 人間道 阿修羅道 畜生道 餓鬼道 地獄道
天道は、文字通りの天国、神の棲む領域で、極楽の世界だ。そして「人間道」の世界が、普通の人間の棲む世界で、ここが、上述の三界に分かれているということのようだ。
下位にある畜生道(人間なのに畜生同然)、餓鬼道、地獄道は、おおよそ解るところだ。以前、庶民には、現世で悪いことをすると、輪廻のサイクルの中で時間軸が進み、次に生れ替わる来世に、餓鬼や地獄に落とされる、と強く信じられていたようだ。 芥川龍之介の短編小説「蜘蛛の糸」は、一本のくもの糸に捉まって、他を押しのけて必死に地獄から脱出しようとする罪人の様子を描いたものだ。
人間道と下位世界との中間にあるのが阿修羅道で、争いが絶えない世界と言われ、怖い形相をした男性の阿修羅像が、各地にある。
封建時代、男尊女卑の思想と家父長制を押しつけられた女性たちは、“女は三界に家なし”とされ、生家では父に従い、嫁しては夫に従い、夫の死後は子に従うことと言う、三従の道に生きることを求められたようだ。
*又、前世 現生 来世という時間軸の中で、人間関係の繋がりは、
親子は一世、夫婦は二世、主従は三世
という、三世の契りがあると考えられたようだ。(他人は五世ともある)
常識的には、血のつながりのある親子関係が最も大事で、次に夫婦関係が大事で、その次が主従関係(他人との関係も含め)というのが、昔も今も変わらない人間関係の価値観だろう。
でも、これを逆にして人為的なルールを重視するこの思想は、為政者にとっては、社会体制を維持するには、好都合の理屈とも言えようか。
◇ 子宝
万葉集にある、往時の歌人大伴家持の名歌、
●白がねも黄金も玉もなにせむに、優れる宝子にしかめやも
を引き合いに出すまでもなく、夫婦にとっては、子宝に恵まれる嬉しさは掛け替えのないものだ。
でも、幼い間は素直で可愛いかった子が、成長するにつれ、だんだん、生意気になって言う事を聞かなくなり、様々な問題を持ち込むのは世の常で、三界の首枷という実感も出てくるだろうか。
一方、現今、前述の三従の道を乗り越え、仕事にも生きがいを見つけている女性たちは多いが、働き方改革の中で、仕事と子育てを両立させるための子供を預かる施設の確保は、(夫婦にとっての)待ったなしの課題である。
そんな中、ニュージーランドの現役のアーダーン首相(女性)(J.K.L.Ardern)が、娘子の出産のために、この6/21から公務を休み、6週間の産休を取って、先だっての8/2に復帰したというニュースは、極めて新鮮である。(ニュージーランド首相、産休明け復帰 - BBCニュース )
退院したア首相(娘子、夫君とともに)(ネット画像)
現在の世界各国で、女性の首長というだけでも、かなり稀なケースなのだが、堂々と産休を取り、無事公務に復帰したというのは、信じられない大変な驚きで、彼我の社会の違いの大きさを、実感させられることだ。
人間社会の根底を為している、家族と親子関係という繋がりを、生物的、社会的にどうとらえるべきなのか、永遠の課題にも思える。
◇自戒の句
筆者として、後期高齢者の仲間入りしている現在、
●年寄りの冷や水
は、気になる句だ。
解説には、冷やした水を飲むのは、体に毒ということで、“老人に似合わない危険なまねや出過ぎた振る舞いをすることを、冷やかしたり、失敗を警告する言葉”とある。
自戒の諺でもあるのだが、今年の様な猛暑下では、特に年寄には、大いに水分を補給し、涼しくする工夫も重要だろう。老いの木登り、という、同意の諺もある。
◇仮名尻
いろはかるた47文字の最後の48番目には、「京」があり、これを、仮名尻と呼んでいる。仮名尻の反対は仮名頭で、犬棒かるたの「い」である。
江戸いろはかるたでは、この京に、
● 京の夢大阪の夢
という句がついている。この意味は、京、大阪という地域や人それぞれに、異なる夢があるということで、夢の話や夢の様な話をする前に唱える言葉という。夢は不思議なものであること、夢では様々な願望が叶うものだということ、を言っているようだ。
京という字は、名字にもなっていて、通常の「キョウ」等の他、「カナジリ」と読む姓が、西日本などで実際にあるようで、当ブログの最初の稿(いろはかるた 18/7/1)で触れたことだ。
いろはかるた発祥の地とされる京都系かるたでは、トレードマークのように、「京」の仮名尻がついていて、
● 京に田舎あり(京都)
という句がついている。
◇ かるたの簡潔さとリズム
いろはかるたには、俳句や和歌が土台となっていて、語数が6~12と簡潔で覚えやすいものや、5・7調、7・5調の日本語のリズムをもつ文言が多い。
江戸いろはかるた48枚を、かるた文言の語数で分類すると以下のようになる。太字は、語数が簡潔な句や、リズムが心地よいと感じられる場合を示している。他の地域の京都系、大阪系のかるたにも、同様のものは多いが、省略する。
総語数 かるた文言 リズム
6語 :まけるが かち (4 2)
7語 :ろんより しょうこ (4 3)
はなより だんご (4 3)
おにに かなぼう (3 4)
なきつらに はち (5 2)
ゆだん たいてき (3 4)
みからでた さび (5 2)
しらぬが ほとけ (4 3)
えてに ほをあげ (3 4)
すいは みをくう (3 4)
8語 ぬすびとの ひるね (5 3)
らくあれば くあり (5 3)
くさいものに ふた (6 2)
びんぼう ひまなし (4 4)
9語 としよりの ひやみず (5 4)
われなべに とじぶた (5 4)
そうりょうの じんろく (5 4)
つきよに かまをぬく (4 5)
ねんには ねんをいれ (4 5)
めのうえの たんこぶ (5 4)
うそからでた まこと (6 3)
げいは みをたすける (3 6)
10語 へをひって しりすぼめ (5 5)
かったいの かさうらみ (5 5)
おいては こにしたがえ (4 6)
せにはらは かえられぬ (5 5)
11語 りちぎものの こだくさん (6 5)
ちりもつもれば やまとなる (6 5)
れうやくは くちににがし (5 6)
こはさんがいの くびかせ (7 4)
12語 にくまれっこ よにはばかる (6 6)
たびはみちずれ よはなさけ (7 5)
ていしゅのすきな あかえぼし (7 5)
きいてごくらく みてじごく (7 5)
えんはいなもの あじなもの (7 5)
きょうのゆめ おおさかのゆめ (5 7)
13語 いぬもあるけば ぼうにあたる(7 6)
るりもはりも てらせばひかる (6 7)
いものにえたも ごぞんじなし (7 6)
やすものがいの ぜにうしない (7 6)
あたまかくして しりかくさず (7 6)
14語 むりがとおれば どうりひっこむ (7 7)
ほねおりぞんの くたびれもうけ (7 7)
よしのずいから てんじょうのぞく (7 7)
ふみはやりたし かくてはもたぬ (7 7)
15語 のどもとすぎれば あつさをわすれ (8 7)
さんべんまわって たばこにしよう (8 7)
17語 もんぜんのこぞう ならわぬきょうをよむ (8 9)
今回で、個々のかるたについて取り上げるのは一区切りとし、次稿では、歴史の中での仮名文字の創出や、五十音と、いろはの関係などについて取り上げる予定である。