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大相撲の椿事  4

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2017年1月25日(木)  大相撲の椿事  4 

 

  昨年秋以降、横綱日馬富士の暴力事件で揺れた大相撲だが、初場所が1月14日から始まって、早いもので、中日も過ぎ終盤である。

初場所は、3横綱でスタートしたものの、残念ながら、白鵬、稀勢の里の両横綱が、立て続けに休場し、怪我で休場する力士も多く、波乱が続いている。

でも、次代を担う元気な若手連が土俵を盛り上げているのは、嬉しい限りで、連日、盛況のようだが、大相撲界の今後の改革に対する期待の現れでもあろうか。 

  本稿は、これまで、当ブログに投稿した、以下の諸記事、

    大相撲の椿事  1  (2017/12/17)

    大相撲の椿事  2  (2017/12/25)

    大相撲の椿事  3  (2017/01/14)

 

の続編として、大相撲の

    ・スポーツ競技としての特徴

    ・伝統文化としての側面

を取り上げている。

 そして次稿で、最後の締めくくりとして、筆者としての幾つかの提言を、述べる予定である。

 

 

◎スポーツ競技としての大相撲

 大相撲には、スポーツ競技の側面と伝統文化の側面があろう。

先ず、スポーツ競技として見ると、他の、1対1の格闘技である、レスリング、柔道、ボクシング等と比較した、大相撲の特徴としては、以下のようなものがあるだろうか。

 

◇ 競技環境と競技条件

* 盛り土を固めて、俵で丸く仕切った土俵上で競技する。

  →土俵に埋め込んだ柔らかい俵で、外と内が区切られており、俵は少し高くなっていて、踏ん張れるようになっている。

* 上半身は衣裳を付けず裸で、下半身の回し(褌)だけで競技する。

  →上半身丸裸の競技は珍しく、欧米人などは、裸や尻出しへの抵抗感が強い。

    女性は裸は不可で、アマ相撲では、上下の下着を付ける。   

  →回しを付けるので取り組みやすい

* 体重別のクラス分けがない。

  →他の格闘技や、重量上げでは、競技者は、体重別にクラス分けされる。

 

◇ 番付

*大相撲全体として、力士には、レベル分けされた、以下のような序列がある。

 序の口から幕下までの下っ端は、正式には「力士養成員」というようだが、通常は、「取的(とりてき)」(褌(ふんどし)かつぎ)と呼ばれ、関取の小間使いをつとめる。 

十両以上は、関取と呼ばれ、取的とは待遇が全く違うようで、いわば、身分制度・徒弟制度とも言える。が、封建時代の、生まれながらにして身分が異なる、固定的な制度とは根本的に異なる、実力本位の世界。 

    (取的)  序の口→序二段→三段目→幕下→  

    (関取)  十両→

    (幕内)  前頭→三役(小結→関脇→大関)→横綱 

大相撲は、全体としては、プロの組織だが、上記のように、内部に、取的という養成システムを抱えていて、関取の十両以上が、1人前のプロと言えよう。

 

* 大相撲と比較するのは、やや無理があるものの、他のブロスポーツでも、以下のように、競技者が順次育成され、プロになっていくシステムが出来ており、上位に進むのには、厳しい鍛練と、熾烈な争いがある。

    サッカー  育成: 高校→大学→

                 地域・企業

            プロ: J3→J2→J1

      野球    育成: 高校→大学 

             都市対抗(企業) 独立リーグ

             プロ: 2軍→1軍

* アマ相撲の状況

   わが国には、プロの大相撲に対して、前稿その3で触れた様に、アマチュア相撲の組織や、リーグもある。 アマ相撲の競技ルールは、大相撲に準じている。

また、アマ相撲と大相撲は、連携していて、高校や大学から、プロの大相撲に入るケースも多い。これらの詳細については、本稿では省略する。

  

* 番付編成会議で、場所の成績のみで、次場所の番付が決まることで、番付の公平性が保たれ、温情、八百長等は禁止である。

  番付の最高位は横綱、次位が大関だが、特別な地位であるこれ等への、推挙・降格条件と手続きが決められている。 

 

◇ 取組み

* 取組編成会議で、番付の位置によって、近いレベル同志で取り組みが決められる。取り組みの公平性のため、同部屋同志や、近い血縁関係にある同志の取り組みはしないというルールがある。休場が生じると、その日は、不戦勝・不戦敗で処理し、次の日からは、現存する力士での取り組みが行われる。

 *十両以上である関取は15番競技するが、幕下以下の取的は7番である。

 上位から組み合わせを作っていくが、同じレベルの数が奇数の時は、序列を跨って組み合わせていくが、当然ながら、最後の方で偶数にならず、取り組む相手がいないことが起こる。以前から、このことが気になっていたのが、今般、漸く分った。

  取的以下は、7番なので、場所途中では、取り組みが無い力士を利用して組み合わせを作っていく。最終日になって、全力士が公平に7番づつにならない場合は、「8番勝負」というルールがあるようだ。これは、奇数になった力士の相手として、既に取り組みを終っている力士に、8番目の勝負をしてもらうという。動員された当該力士の最終成績は、負けても変わらず、勝った場合は、それが成績となるという。  

 

◇ 勝負

*勝負は、土俵を割る(場外)か、土俵内(場内)で土がつけば、決着する。

→土俵を出て場外になると決着する競技は極めて珍しく、(大)相撲の最大の特徴とも言えるかもしれない。

→相手を倒さなくても場外にすることで決着するこから、穏やかで平和な競技と言える。(平和だが、物足りない格闘技)

→柔道、レスリングでは、場内での決着が原則で、場外になると再試合となる。

→柔道、レスリングでは場内での一本勝ちやフォール勝ちは少なく、ポイント制での、判定での決着が多い。試合を見ていて、場外近辺でイライラさせられることが多く、高揚感や面白さがすくない。

*勝負や決まり手が良く見えて分かりやすい 

→決まり手には、場内、場外の48手があると言われる。

     土俵の外へ(場外) 寄り切り 押し出し 押し倒し 突きだし など

     土俵の中で(場内) 引き落とし 上手投げ 下手投げ など

→横綱相撲

  昨年暮れの横審メンバーによる稽古総見で、北村委員長から、白鵬への苦言が呈された。 横綱の目くらましや、かちあげは、美しくなく、見たくないと。これを意識したのか、今場所の横綱の取り口は変わったようで、初日の取り組みでは、小結阿武咲の強烈な突っ込みをまともに受け、押し出されそうになったが、横綱が咄嗟に交したので、阿武咲が空を舞って場外へ飛び出し、横綱が勝ちを拾ったのを見た。ダイナミックで素晴らしい印象であった。

 小技は使わず、堂々と取り組むことを、横綱のマナーとして、要求されたのだが、これを、マナーでなく、例えば、横綱・大関は、小技は使用禁止などと、明確に禁ずることも、ありのように思う。 

 

* 時間の制限

 試合時間の制限がなく、短時間で決着がつくことが多い(数秒の瞬時から、精々1分程度まで)

  →取り組み前の睨みあいは、無駄な時間ではなく、徐々に気分を高揚するためという。以前は、時々、制限時間前に取り組みが始まることもあった。

  →柔道、レスリングでは、分オーダーで試合時間が決められている。    

 

* 行司の役割、

  イ 立会い:力士同志に競技を始めさせるのだが、両者の呼吸を合わせるのが難しいようだ。 

    行司は、毎度、“両手をついて”と言うが、TVでは、片手しか付いていないように見え、時間差が出ることもあるようだ。立ち合い後、行司や審判から止められることもある。 筆者は、立ち合いの改善策として、軍配を仕切り板のように使ったらどうか、と常々思っているのだが、次稿で取り上げる予定である。 

      ロ  勝負の判定:行司が勝負を判定し軍配を挙げる。

でも、行司の立つ位置等から、よく見えない時もあるため、5人の審判役がいて、行司の判定に対して、「物言い」する制度が出来ている。

物言いがあると、土俵上に、行司、審判役が集まり、ビデオも見て、審議し判定する。その結果、

      行司軍配通り 行司軍配差し違え 取り直し

のいずれかとなる。物言い後の一連の動作が、手際良く行われ、結果が場内に周知されるので分かりやすい。

 言いは力士本人からは言えないのだが、前場所での白鵬の物言い所作が問題となったのは、記憶に新しい(前稿 その2で触れているので省略)

 

 他の競技でも、審判の判定を巡るチャレンジ・クレーム制度が、以下のように採用されていて、ビデオ判定などが使われているようだ。

       チャレンジ:テニス バレーボール 

       クレーム :野球 レスリング サッカー

 

◎ 伝統文化としての大相撲

  日本の伝統文化としては、

      歌舞伎、邦楽、舞踊、芸妓

などがあるが、大相撲も、伝統文化と言える側面を持っている。

 

◇大相撲での伝統芸

*横綱土俵入り

 大相撲での、衣装などの色彩美に加えて、形式美の極致ともいえるのが、横綱土俵入りだろうか。行司を先頭に、露払い、太刀持ちを従えて、場所中、連日行われる横綱土俵入りは、見事なものだ。 

この正月の9日、初場所前の明治神宮で、3横綱(白鵬、鶴竜、稀勢の里)の奉納土俵入りが行われたが、久々の壮観だったといえよう。

行司の軍配や衣装、呼び出し、取り組み終了後の弓取り、塩まき、なども、独特の文化だろう。力士の化粧回しや髷(大銀杏)も、ユニークである。

 

*三段構え

 今般初めて知ったのだが、「三段構え」という、伝統的な所作があるようだ。

昨年10月、蔵前国技館での、「大相撲beyond2020場所」と銘打ったイベントで、21年振りに披露されたというものだ。

下図左の上段から始まって、図中央の中段になり、最後に図右の下段になるようだ。 それぞれに意味があるようだ。

三段構え - Wikipedia

      

    ①上段の構え              ②中段の構え          ③下段の構え

      本然の体                攻撃の体              防御の体

 

 そして、筆者が感慨深かったのは、めったに見られない日本の伝統芸を、モンゴル出身の二人の横綱

                  日馬富士と鶴竜 

が継承し、見事に演じてくれたということで、大相撲での力士の国際化は大丈夫だな、との印象だ。

でも、今回の事件で話題となった、横綱日馬富士は引退して土俵上の雄姿はもう見られず、横綱鶴竜も処分をうけたが、因縁のようなものを感じた次第。

 

◇四股名と年寄名跡

*大相撲では、力士は、実名でなく、芸名とも言える「四股名」で呼ばれ、取り組み時に、呼び出しや行司から、朗々と紹介される。これも、伝統文化の一面だろうか。歌舞伎や、舞踊、落語等の世界でも、一人前となると、役者名(芸名)が付けられ、先代の名跡を襲名することが多い。 

大相撲の四股名には、読み方があり、上位の力士では、以下のようだ。

    ・音読み  白鵬 鶴竜 豪栄道

    ・訓読み  高安 御嶽海 翔猿(とびざる)

      一字   輝 勢 魁 彩 

    ・湯桶読み(重箱読み) 貴景勝 北勝富士

・これらに当てはまらない難読例

     阿武咲(おうのしょう) 阿炎(あび) 天空海(あくあ)  

  春日富士の四股名は当初安馬(あま)だったが、大関昇進時に、日馬(はるま)富士に変わったが、“はるま”という読み方には当惑したものだ。 

 *現役引退後、相撲界に残る場合は、一代年寄以外は、親方名(年寄名 部屋名)になり、覚えるのに一苦労だ。筆者と同時代の若い親方は、年寄り名で無く、現役時の四股名を聞いて、漸く分かる事も多い。

 その3で触れたように、歴代の年寄名跡が、100もあり、現在は行われていない、名跡の貸し借りで、同じ人物の年寄名が、何度も変わることもある。例えば かなり極端な例だが、関脇だった現在の朝日山親方は、ネット情報によれば、

           (四股名)琴錦→(年寄)若松→竹縄→浅香山→荒磯→秀の山→中村→朝日山

となる。琴錦は、現役時代からよく知っていて、好きな力士の1人だけに、ややこしいことだ。

逆に言えば、同じ年寄名を名乗る人が、変わっていくことも多い。

  

 ◇ 女人禁制

* 大相撲で、伝統的・文化的側面がもっとも現れている事項の一つが、女人禁制だろうか。

大相撲では、土俵上は神聖な場所で、女人禁制とされる。

平成12年(西暦2000)、大相撲大阪場所の千秋楽で、当時の、初の女性知事である大田房江府知事が、優勝記念品を直接手渡したいと協会に申し入れたが実現せず、男性の副知事が代行したというハプニングがあった。当該場所の会場を提供している大阪府の責任者が申し入れても断られる、ということで、話題になったことだ。

 横審委員や大学相撲部の監督も務めたことがある、脚本家の内館牧子氏は、このハプニングについて、近代的な男女平等・機会均等の考えを持ち込んで、大相撲での伝統的な慣習を、批判するのはおかしいと、相撲協会を擁護する発言をしているようだ。

  伝統芸能である歌舞伎の世界も女人禁制で、男が女形として、女役を演じている。

 

* スポーツの世界では、オリンピックをはじめとして、男女平等、機会均等が原則で、どの競技や種目も、男女が参加できるようになっている。

 伝統競技ではない近代スポーツと言える野球は、男子のみで、女子リーグがなく、代わりにソフトボールがあるというのが、やや不思議だ。2020の東京オリンピックでは、日本だけの特別な種目として、男子の野球と、女子のソフトが採用されている。

東京オリンピックでゴルフ会場となる霞が関CCは、しぶしぶIOCの要求を呑んで、女性の会員も認める規約に変えたことは、その3で述べた。

 *でも、大相撲や歌舞伎などの伝統文化で継承されている、これらの慣習は、突き詰めると、独断だが、男女の能力差や機能分担に基づいている、と言うより、男性中心の思想、男尊女卑の思想を現しており、それに神がかりの衣を着せている、とも言えようか。そして、日本での、男系中心の天皇制に行きつくと言えるだろうか。

 *相撲や大相撲が、競技として国際化するための、最大の障壁は、筆者は、女人禁制をどうするかだ、と考える。

以前、大相撲で海外巡業が行われた時は、裸の親善大使などと言われたが、外国人の目にはどのように映っただろうか。また、最近の観光客や外国人記者は、どんな印象を持っているだろうか。これらについても、次稿で改めて取り上げたい。

 

 

 


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