2018年1月20日(土) LGBTと広辞苑
先日の1月12日、わが国のデファクトスタンダードとも言える権威をもつ国語辞典「広辞苑」第七版が発売された。出版元は、岩波書店で、10年振りの、満を持しての改版だ。 筆者は、家内がかなり以前に、幼稚園勤務の退職記念に貰った、この辞典の第1版を愛用しているが、旧仮名づかいということもあり、この新版を、出来れば手に入れたいと思っている。
(図はネット画像)
◎ LGBTで誤り
所が、この辞典、思わぬところで話題となっている。すなわち、今回、新たに収録した外来語 エル・ジー・ビー・ティー 「LGBT」について、上図右のように
LGBT:多数派とは異なる性的指向をもつ人々
となっている説明文が、誤っているという指摘が、当事者等からネット上で出されているようなのだ。
LGBTに関する今回の指摘は、筆者にもよく理解できない、かなり複雑な内容のようで、本稿で、LGBT、特にTについて、以下に、改めて取り上げることとした。
◇ LGBTとは
人権擁護の国際的な活動などで、この所は、LGBTという用語は、かなり知られてきている。筆者も、当ブログで、以下のように話題にしてきたところだ。
①選挙と住民投票 3 (2015/6/2)
②パートナーシップ証明書 (2015/11/18)
③LGBT (2016/1/9)
①では、同性婚をめぐるアイルランドの国民投票について、②では、世田谷区の事例をとりあげている。 そして③で、LGBT全般を扱っており、ここでは、詳細は省略し、ポイントを絞って触れることとしたい。
◇性的多数派と性的少数派
人間の性(sexuality)については、大まかに、以下のように言われている。
・性には、生理的性(雄/雌 sex)と社会的性(男/女 gender)がある。
・生理的性と社会的性が一致し、性同一性(gender identity)が保たれている人たちがいる。
・どの性を求めるかという、性的指向(gender orientation)があり、性同一性が保たれている人たちでは、自分と異なる性(異性)を求める人たちが多く、このような人たちは、性的多数派(sexual majority)と言われる。
・これに対し、生理的性と社会的性が一致していても、性的指向が、同性(L、G)や両性(B)を求める人たちがいる。
・また、生理的性と社会的性が一致せず、性同一性に障害がある (gender identity disorder)人たちがおり、この人たちの性的指向も、同性や両性と、様々である。
・このような人たちは、性的少数派(sexual minority)と言われる。
以上について、上述の③で引用した図を、再度、以下に示す。図では、生理的性は、身体の性、社会的性は、心の性、性的指向は、好きになる性と呼ばれている。
図で、2、10の場合が、性同一性が保たれ、異性が好きになるマジョリティである。他は、性的指向が、同性(1G,11L)や異性(4、5,7,8)、両性(3 6 9 12)だったりするマイノリティーである。
◇ 難解なT(トランスジェンダー)
今回話題となった、Tについては、前稿の③でも、筆者にはよくは解っていなかったのだが、今回、やや分かったことは、以下の、イがL・G・Bで、ロがTで、基本的に異なるらしい、と言う事だ。
イ L、G、Bの人たちは、性同一性が保たれず不一致の状態(性同一性障害)だが、不一致を自認(自覚)している人たちと言える。上図は、これ等のケースだ。
ロ しかるに、Tの人たちは、自分の社会的性が、どちらなのか自認(自覚)できず、行ったり来たりさ迷っている(trans)という。 日本語では、Tが、性超越者、性越境者などと呼ばれる所以だ。 上図には、Tは含まれない。
筆者の理解では、このTは、性的指向以前の、性同一性の問題で、性的指向とは別次元、というのが、今回の指摘のようだ。当該辞典の説明文での、「性的指向」という用語が、T(トランスジェンダー)に関しては、問題があると言うこととなる。
ネットで、LGBTの説明のトランスジェンダーを見ると、以下のよに、出典により、様々に記されている。(LGBT(えるじーびーてぃー)とは - コトバンク)
トランスジェンダー ・性同一性障害など
・心と体の性が一致しない人
・出生時に診断された性と、自認する性の不一致
・性同一性障害を含む体と心の性が一致しない人
・出生時に法律的/社会的に定められた自らの性 別に違和感を持つ人
筆者の理解では、これらは、上記のイが主で、ロには殆ど触れていないように思える。
また、トランスジェンダーのWikipediaでは、あらゆる性的状態を包括する一般用語だ、という、勇ましい説明もあるがーー。 (トランスジェンダー - Wikipedia)
◇ 修正案は?
「はやり言葉」が定着するのをみて、辞典を編纂するのは、時代を映す国語辞典として、極めて重要なことだが、LGBT自身が、医学や心理学や社会学にも広がる、今も動いている先端分野だけに、厄介な事例に首を突っ込むことになった、と言えよう。
しからば、どういう説明ならいいのだろうか。ネットでは、具体的な修正案の提案は無いようだ。岩波書店も、ネットの指摘に対して、今後、修正するかどうかを検討するとしているという。指摘を踏まえ、限られた語数内で、簡潔に正しく説明するのは、容易ではないが、筆者も、誤解を恐れず、考えてみたのが以下である。
LGBT 現文 多数派とは異なる性的指向をもつ人々
案1 生理的な性と、社会的な性が一致しない人等の性的少数派 (等でごまかしているがーー)
案2 生理的な性と、社会的な性が一致する、しないに拘わらず、多数派とは異なる性的指向をもつ性的少数派
案3 性同一性の障害の有無に拘わらず、多数派とは異なる性的指向を持つ性的少数派 (案2の下線部を短縮)
案4 多数派とは異なる性的指向を持ったり、社会的性が分からない性的少数派(下線部で性的指向と区別)
これらの中では、似た用語が多いものの、案3あたりが良いのだろうか?
LGBTという用語自身は、特定の4つの性的状態を表す言葉の頭文字の集合だが、性的少数派全体を指す一般用語として、性的多数派に対比して使われることも多い。
いやはや、難しい時代になったことだ!
◎ しまなみ海道
また、つい先日の報道では、広辞苑第7版で、新規に追加された項目の、「しまなみ街道」で、経由地の説明に誤りが見つかったようで、簡単に触れることとしたい。
瀬戸内海の島々を経由して、広島県尾道市と、愛媛県今治市とを結ぶ自動車専用道は、「しまなみ海道」と呼ばれる。(下図は、左 地図、右 広辞苑 ネット画像より)
左の地図にあるように、道路は、尾道から、因島、生口島、大三島、伯方島、大島を経由して今治市に至るが、今回の辞典では、この大島を、右図のように、山口県の周防大島と間違えてしまったという。
日本国内には、大島と呼ばれる島は、数え切れない程あるようだ。(大島 - Wikipedia)
◎ 誤りへの対処
広辞苑 第6版では、約24万の収録項目数(語数)だったが、今回、新たに約1万項目を厳選追加し、第7版は、約25万項目となっているが、薄く強い用紙を使用することで、全体の厚みは維持しているという。
この種出版物では、念には念を入れてチェックしても、出版後に、誤りが判明することは皆無ではなく、内容的な誤り(LGBT)や、ケアレスミス(しまなみ海道)もあると思われる。
権威ある国語辞典としての、責任と名誉にかけて、これからも判明するであろう誤りも含め、重版などの機会に、善処して欲しいものである。