2017年12月25日(月) 大相撲の椿事 2
大相撲の横綱春日富士の暴力沙汰に関して、先日の12月20日、 臨時の横綱審議委員会(横審)が開かれ、日本相撲協会に進言(答申)があった。これを受けて、協会の臨時の理事会が開催され、関係者の処分が発表された。ただ、貴乃花親方の措置は、聞き取りが間に合わなかったということで、28日に予定されている、次の理事会に持ち越されている。
初場所に向けて、当面の進展が大いに注目されるところだ。
本稿は、先日当ブログに投稿した、以下の記事の続編である。
大相撲の椿事 1 (2017/12/17)
◇ 概況
今回の事案の措置については、マスコミで詳細に報道されているので、ここでは、ごく簡潔に記すこととしたい。
・横審の答申
今回の事件に関係した、3人の横綱につい、横審の北村委員長から、審議会としての答申(進言)内容と主な意見について、言葉を選びながらの、分かりやすい発表がなされた。 横審は、相撲協会の諮問機関として、国民と相撲界との中間にある存在、との認識が示されている。
答申では、加害者である横綱春日富士については、引退が相当とし、同席していた、白鵬、鶴竜の両横綱については、暴力を止められなかった責任があり、厳重注意とした。
貴乃花親方については、理事、巡業部長として、協会に報告しなかったのは問題があるが、協会の事情聴取後に措置する。
でも、横綱に推挙した横審の責任については、品性までは分からないとし、横審としての反省の言葉がなかったことに、批判もある。
・理事会の措置と処分
横審の答申を受け、理事会として審議した結果について、八角理事長と、高野危機管理委員長(外部理事 元名古屋高検検事長)から発表された処分内容は、以下である。
春日富士 横審の答申通り、引退が相当 (自発的な引退を追認)
横綱の暴力は引退という、今後の前例になる
功労金については、今後の検察の措置をみて減額
(通常の会社で言えば、懲戒免職ではなく、依願退職の形で退職金は支給)
白鵬 鶴竜 1月分の給与は支給停止
白鵬は2月分も1/2カット
(出場停止等の処分は無い)
同席の他力士 注意処分
伊勢が浜親方 理事を降格、2階級下の役員待遇参与に
事件後、本人から理事辞任の申し出があったのを留保
貴乃花親方 答申通り、協会の事情聴取後、12/28の次理事会までに措置する。
八角理事長 3月までの残された任期は無給
⇒全体として、かなり生ぬるい、と言うのが、筆者の率直な感想だ。
・全員研修会
21日、全力士と、親方、行司、呼び出し、床山を含めた 全員研修会が開催され、評議員会の池坊委員長と、協会の八角理事長の訓 話があり、暴力追放を申し合わせたようだ。
◇いくつかのコメント
大相撲は、長い歴史を持つ、国民的に人気のある競技だけに、今回の事件は、誰もが評論家になれる話題だ。筆者も、フアンの一人として、コメントしたい。
①暴力の許容範囲
・学校での部活動や、格闘技などのスポーツの世界では、一昔前までは、暴力やリンチは、良く耳にしたが、各方面での国民的な暴力追放運動の流れから、この所は、(表向きは)殆ど無くなってきているだろうか。
大相撲の世界でも、過去の幾多の暴力事件の反省から、大幅に減って来ていると思われる。
でも、今回の暴力事件は、
ア 例外的に稀なケースとして起こったものか、
(殆ど無くなっているが、たまたま、起こったもの)
イ 「氷山の一角」として、表面化しただけ、
(現在も日常的に行われている)
なのか、判断に迷うところだ。 願わくば、前者のアであって欲しいのだがーーー。
先日の記者会見での高野危機管理委員長の言葉では、以前は、暴力的な「しごき」に耐えて頑張る事で、強くなるとされた、と、過去形で述べていた、と記憶している。
でも、上述の全員研修会の席上、八角理事長が、
“何気ないちょっとした暴力が組織を揺るがす”
と発言したと伝えられたが、これが事実とすれば、相撲界は、理事長以下、いまだに、イであることを、如実に物語っているようで、筆者は愕然とした。 口先だけで、行動が伴わないのは世の常と言われるがーーー。
・スポーツの中でも、
相撲、レスリング、柔道、ボクシング
などの、直接体を触れ合い組み合う競技(格闘技)では、暴力との境界が明確でない面がある。
各競技には、「禁じ手」があるが、相撲の世界では、以下のような禁じ手がある。 (禁じ手 - Wikipedia より)
1 握り拳で殴ること
2 頭髪をつかむこと
3 目またはみぞおちなどの急所を突くこと
4 両耳を同時に両手のひらで張ること
5 前立みつをつかみ、また横から指を入れて引くこと
6 ノドをつかむこと
7 胸、腹をけること
8 一指、二指を折り返すこと
一方、相撲では、土俵上の技として、
・ 張り手(平手打ち)、
・ 目くらまし
・ ぶちかまし(頭突き)、
・ かちあげ(肘で押上げ ボクシングでは禁止)
などが許容されていて、相撲のTV中継では、よく見かける。
こんなことから、相撲部屋での普段の稽古や日常生活の場でも、先輩―後輩などの間で、手を使って頭をたたく、などの動作は、あるだろうか。 いっそのこと、相撲業界として、禁じ手と同じように、暴力として禁止される行為(パワーハラスメント)を、列挙したらどうだろうか。
いまや潮流としては、競技やスポーツの世界だけでなく、一般社会や家庭内でも、暴力の許容範囲は、ほぼ、0になっている、と言えるだろう。
② 横綱の品格
横綱は現役力士の頂点に立つということで、横綱に推挙される場合、力量だけでなく、品格が重視されると言われるが、横綱の品格についての、明確な規定等は見当たらない。横綱の品格とはなんだろうか。 手許の「広辞苑」には、
品格 しながら 品
気高いこと 気品
とある。
・ある時、ベテランのNHKの刈屋谷富士雄アナ(現 解説委員)が、悩んでいた横綱朝青龍から、横綱の品格について質問されたという。 これに対し、横綱の有るべき姿について、刈屋アナは、以下のように答えたというエピソードが、ネットで紹介されている。(「横綱の品格」を説いたNHK アナウンサー 刈屋富士雄さんの言葉が深い。) 曰く、
・人よりも自分に厳しいこと
・人よりも努力をすること
・そして、人に対して優しくあること
・そういう日々を送ることで身につくもの
これに対して、朝青龍関が、
・それよりも勝つことのほうが大事なんじゃないか
と言ったという。
このことは、事柄の本質を突いているとも言え、二者択一ではなく、どちらも大切と言う事で、横綱には、抜群の力量とともに、上記のような人間的な特性が備わっていることが大事、と言う事だろう。 力を頼って暴力を振るう等は、以ての外、という事だ。
・往時、横綱双葉山が、3年越しの69連勝でストップした時に、
われ未だ木鶏たりえず
と言ったという。双葉山は、中国の故事にある「木鶏」が、横綱の理想と考えていたようだ。 木鶏とは、木製の雄鶏で、闘鶏では、最強のシンボルとされたようだ。
無言のまま、泰然自若として動じず、そこいるだけで周囲から畏怖される姿という。
これは、横綱としての人間的な優しさの面というより、不動の強さの面を表したものだろうか。永遠に、木鶏には到達できないだろうがーーー。
横綱とは、気はやさしくて力持ち、の刀を持たない桃太郎だ、という喩を聞いたこともある。
・神事との関係が深い大相撲では、横綱土俵入りで、回しの上から締める白い綱は、神社の注連縄(しめなわ)を表していると言われる。
でも、横綱という人間を神格化してはならず、横綱も人の子、慾や迷いがあるのは当然だが、人の道に反しない生き方や行動が求められる。このことは、横綱だけで無く、大関や他の力士についてもいえることだろう。
今回の事件は、人並み外れた力持ちの力士(しかも横綱!)が、暴力を振るったことで、特に注目された事案だ。良く話題になる事だが、取り締まる立場の警官が、飲酒運転をしたり、指導する立場の学校の先生が、生徒を土付いたりするとニュースになる。
でも、彼らは、そういう点で特別に優れている人物と言うわけではなく、そのように教育され、自らを戒める努力をしている、ということだろう。
・横綱相撲
横綱相撲という言葉があり、時々、話題となる。
ネットでは、以下のように説明されている。(横綱相撲(よこづなずもう)とは - コトバンク)
正面から相手を受け止めて圧倒的な力の差を見せつけて勝つこと
それなのに、最近の横綱白鵬は、張り手(目くらまし)、かちあげ(肘技)など、小手先で相手を制する動きが多くなっているのは、横綱らしくない、横綱相撲とは言えない、と批判されているのだ。
これらに加えて、八艙飛び、立ち合いの変化、なども、姑息な動きともいえるが、得意とする力士もいて、これ等が無くなると、相撲の面白味が減るとも言える。
横綱(や大関)だけ、これらを禁止するという決め方も可能だろうが、一種のマナーとして定着させるやり方が妥当だろうか。
先日、横審の北村委員長が、答申の中で、九州場所での白鵬の所作について、望ましくないとコメントしている。取り組み終了後、行司軍配への不満を現して、暫く手を挙げて、土俵に残った、あの動作だ。
しかし、5人の審判からの物言いもなく、異様な時間が流れた。行司は、両者が手をついたので、立ち合い成立とみなし、白鵬は、その後、“まった”の積もりで力を抜いたことで、そのまま押し出された。
TVを見ていた筆者には、立ち合いは、咄嗟の事でよくわからなかったのだが、ビデオで見ると、行司軍配通りであり、行司と審判は筋を通した、と言う事だろう。
取り組んだ力士自身から物言いするのは許されない、という規定があるのかも知れず、前例は無いのだろうか。
でも、筆者の提案は、あの場面では、見ている観客へのサービスとして、物言いに準じて処理し、審判役が集まって、即、結論を出し、白鵬に厳しく注意すべきだった、と思う。
・ 富岡八幡宮
江東区にある深川富岡八幡宮は、江戸幕府の勧進相撲の発祥の地とされ、そこには歴代横綱の碑があり、横綱名が刻印されているようで、最新では、横綱稀勢の里である。
先だって、骨肉の争いから、この神社の宮司が殺害されるという凄惨な事件が起こっている。今回の暴力事件とは無関係だが、不思議な偶然の一致だろうか。