2016年10月16日(日) 新東京都知事 続その後
先日の10月1日は、都民の日だったが、土曜と重なったせいか、やや、印象は薄かった。
このところ、時の人である小池都知事の関連では、当ブログの下記記事
新東京都知事 (2016/9/6)
新東京都知事 その後(2016/9/30)
で取り上げてきたところだ。
9月23日から始まった都議会の冒頭で、都知事の初の所信表明演説があり、TV中継され、視聴したことだ。
その時の草稿がネットで入手できたので、これをもとに、ゆっくり、内容を確かめてみた。(平成28年第三回都議会定例会知事所信表明|東京都)
今回のブログ記事では、現在、大きな話題になっている、築地市場移転問題や、オリ・パラ施設等に関しては、触れずに次稿に回すこととし、一寸視点を変えて、所信表明演説に数多く出てきた言葉や、気になった横文字の用語等に注目して、取り上げることとしたい。
◎都政運営に対する基本姿勢
●都民ファースト
基本中の基本として、「都民ファースト」という言葉が、これまでも、演説でも、何度か使われている。一都民として、この言葉から受ける印象は、当然の姿勢と思うのだが、悪い気はしない。
でも、スローガンとして言うのは簡単で、掛け声倒れに終わる可能性もある。
この言葉に類似した、同義語(シノニム synonym)としては、
アスリートファースト、レディファースト、お客様第一、国益最優先
などがあろうか。
一般的には、反義語(アントニム antonym)をイメージすると、元の言葉の意味が、更に良くわかることも多いが、都民ファーストの反義語は、何だろうか?
「役人ファースト」 「議員ファースト」
等だろうか。公務員としての自分の職場での保身や、自身の生活や利益を優先するということだ。職場では、改善意見は抑えて、できる限り前例に従う、となるだろうか。これらは、筆者も含めて、身に覚えがあることなので、理解しやすい処世術だ。
都には、行政窓口などの一般公務員の他に、
・教育関係者(先生)、警察・消防関係者 約13万人
・公営事業関係(病院、交通、上下水道等 約 2万人
など、大変な数の職員がいて、全体で、16万8千人にも上るようだ。 ((表8)職員数の状況|東京都 )
通常の会社では、
会社ファースト
で、会社のためなら、法や社会常識に反することも、承知の上でやることもある。 公務員、会社員を問わず、働いて賃金をもらい、己の生活を維持することが、大前提なのは言うまでもない。
知事は、演説の最後の締めくくりとして、元東京市長である後藤新平の、「自治三訣」を、引用している。
本稿では、この自治三訣も、都民ファーストに通じる、基本姿勢のひとつと見て、ここで取り上げることとした。
「自治三訣」は、以下のようである。
①人のお世話にならぬよう
②人のお世話をするよう
③そしてむくいをもとめぬよう
このような先人の言葉があることは、筆者はほとんど知らなかったが、「公僕の精神」として、ボーイスカウト等で、言われたようだ。 公務員は、以前は、「公僕」とも呼ばれたが、今は死語に近いだろうか?
世に、個人を中心に見た場合の、社会全体での援助として
自助:自身で支える(家族を含めて)
共助:近隣・地域での支え合い(ボランティアを含む)
公助:公的機関(自治体等)による支援
があると言われる。
時代背景は異なるものの、上記の観点から、「三訣」の①~③について、筆者なりに考察して見ると、以下のようになろうか。
①は、自助ということで、自立の精神と、健康な生活の勧めと言える。
当時は、他への依頼心は弱みでありこれを抑える、とされている。
②は、共助ということで(当時は互助と言われたようだが)、お節介と社会奉仕の精神で、お互い
様ということで、震災時等には、大いに発揮される。
公務員としての、仕事上でのサービス精神も含まれよう。
①、②、ともに、誰にでもわかる、極めて平易な言葉なのが、印象的である。
でも、病気になったり、仕事がうまくいかなくなった時は、①も、②も難しくなる。このような状況を補完するものとして、公助があるだろうか。
日本には、古来、人の世話になる(人を頼る)のを、潔しとしない風潮があるが、当時としては、どこまで、公助を想定していたのだろうか。 現代では、公助を求め、利用することは、憲法で保障された、基本的人権の一つとされている。
③も、平易で分かりやすい言葉で、公僕としての自身に対して、地位を利用して袖の下を求めたくなる誘惑を自制する、戒めの姿勢であり、無償の奉仕とも言える、極めて重い言葉である。
先日のTV報道によれは、国家存亡の危機状態にあると言える、アフガニスタンでさえも、行政サービスを受けるには、賄賂が当たり前の状況という。中国等でなら分かるのだがーー。
以前の官業等が、戦後になって、大幅に民業に移行している現在、公務員だけでなく、教育、運輸、情報通信、金融関連、医療等の民間事業の関係者も、公的な性格を帯びていることが多い。
これらの事業の関係者にも、①、②、③の三訣は、当てはまるだけでなく、人間関係一般でも、広く通用する言葉だろうか。
●都政の透明化
知事は、選挙の当初から、密室やブラックボックスでの非公開をなくし、情報を公開し、見える都政、分かりやすい都政とすると公言し、知事就任後は、すぐに実行に移している。
都政改革本部の設置と各PTの活動がすでに始まっているが、ここでは詳細は省略する。
今後は、巨大な伏魔殿と言われた都庁や都政の様子が、少しずつガラス張りになっていくことだろうか。
知事は、豊洲問題等の解明のためとして、内部告発制度(公益通報)を始めるようだ。このシステムは、組織が、コンプライアンス(法令遵守)を維持するための、現代の有力な手段ではあるが、なんといっても、職員1人1人の自覚と意識改革こそが、最後の決め手となろう。
●ワイズスペンディング wise spending
浪費を抑え、後世への負の遺産(レガシー)をなくして、税金の有効利用をはかることのようだ。
著名な経済学者ケインズの提唱している、将来を見据えた賢明な資金の使用と投資をする、という経済用語が、基になっているようで、素人目には、至極、当たり前のことに見えるが、横文字になると、都政の立派な柱になるから不思議!
知事給与を半減する議案が話題になっていて、議会最終日に、そのように議決されたようだ。筆者は、八面六臂の多忙さという業務の中身からみて、都知事の給与は、高すぎて無駄金だ、とは全く思わないのだが、選挙公約の一つとして、有言実行するのは、けじめであろう。
副知事以下、都議や、都庁職員の給与の話まで、発展させる意図はないと、知事は明言しているが、関係者には、無言のプレッシャーにはなるだろうか。
片や、各地の地方自治体で問題になっている、議員の特別調査費という、みみっちい話題もある。
◎目標とする未来像「新しい東京」の3つの都市イメージ
都民フーストの都政を展開し、都政に対する都民の信頼を回復したその後に、 サスティナブル(sustainable 持続可能な)な首都東京を作りあげるために、 3つのシティを実現するとしている。
1 ダイバーシティ :都民誰もがいきいきと活躍できる
<用語>ダイバーシティは、
diverse (形) 異なる
city (名) 都市
とを結合して、
diver(se)+city=divercity
とした、造語と思われる。
同じ語源で、
diversity (名) 相違 多様性
という言葉があり、これと重ねた意味を持たせているようだ。
国連の条約に、生物多様性条約と言うのが有り、正式名称は、
Convension on Biological Diversity (略称 CBD)
である。この締約国会議(COP10)が、2010年11月に、名古屋で開催された事で、当ブログでも取り上げている。
この地球環境保護活動は、文字通り、地球上の生き物の多様性(biolological diversity)を如何に守っていくか、ということだ。
小池知事は、divercityの意味の中に、男も、女も、老人も子供も、健常者も障害者も、分け隔てなく暮らせる社会をイメージしているだろう。
自分の好きな言葉で言えば、排他的なホモジニアスの社会ではなく、寛容なヘテロジニアスの社会である。
演説の項目は以下のようで、詳細は省略する。
<待機児童問題>
待機児童解消に向けた緊急対策での3本柱
東京の子育て環境の充実
<働き方改革>
ワーク・ライフ・バランス→ライフ・ワーク・バランス
都庁での「イクボス宣言」→ 職場のルールを変える
<一人ひとりの希望を応援>
地域包括ケアシステム
ソーシャルファーム 障害者が働ける場
教育支援と人材の育成 意欲ある子供の就学支援
2 セーフシティ :安全・安心・元気な
<用語>
セーフシティ:safe(安全な) city
<都民目線で災害に備える>
主要道路沿線の耐震化、不燃化
防災面からの無電柱化の推進
<地域社会を安全・安心・元気の要に>
災害時の共助と日常的な絆
<多摩島しょ振興>
地域の特性を生かした持続的発展
3 スマートシティ :世界に開かれ、成長を続ける
<用語>
スマートシティ:smart city
この言葉は、狭義には、先進技術を活用して電力の有効利用等を図る、環境配慮型都市というものだが、現在は、このエネルギー制御だけでなく、生活全般、経済活動、都市交通、行政活動等も包含した、拡大した概念のようだ。
東京は、日本の成長のエンジンであり、以下のような最新技術の活用を進める。
IoT:Internet of Thing
AI :Artificial Itelligence
フィンテック:Financial Technology
<環境先進都市・東京>
低炭素社会の実現
もったいない精神
<再び国際金融の中心へ>
大手町~兜町地区を世界の金融センターに
<持続可能な成長に向けて>
東京のブランディング
伝統工芸品や都市農業
インバウンド(外国からの来訪者)の増加
⇒これらの政策を具体化した、「2020年に向けた実行プラン(仮称)」を、年内を目標に策定し、来年度予算に盛り込む予定と表明している。合わせて、2020年以降の東京の未来像も描くとしている。
果たして、お題目だけでない、どのような具体案が示されるのか、新知事の指導力、調整力、実行力等に期待しながら、待つこととしたい。
この後の演説では、オリンピック、パラリンピック関連が出てくるが、これらについては、ここでは省略し、次稿で取り上げることとしたい。