2015年10月24日(土) 日本の安全保障 3
安保法案を巡っては、憲法違反ではないか、戦争に繋がるのではないか、という国民の批判や不安が強い中で、先月9月19日早朝に及んだ参院本会議で、可決・成立となり、早いもので、以降、1ヶ月以上が経過した。
国の安全保障を巡っては、これまで、当ブログの記事
日本の安全保障 1(2015/9/14)
で、安保法案の現憲法9条との関連や、国連憲章との関連等を見て、
日本の安全保障 2(2015/9/16)
では、これらと密接に関連するテーマである、法案群に対する司法判断について触れてきた。
その後、国連総会に出席した安部総理は、演説で、国内での安保体制の整備を基に、積極的平和主義を一層重視していく、と強調している。
本稿では、憲法違反状態を解消し、本来のあるべき姿にするための、憲法改正問題を取り上げたい。
○憲法改正の世論調査
今年の5月3日は、日本国憲法が施行されてから、今年で68回目の憲法記念日に当たるが、改憲に関して、マスメディア各社が行った調査結果をまとめたものが、ネットのHuffington Postで見つかったので、以下に引用させて頂く。(憲法改正の世論調査、賛成と反対が拮抗 集団的自衛権が影響?)
◇調査概況
“日本国憲法の改正の是非を問う全国世論調査の結果を、マスコミ各社が伝えている。
5月2日までに報じられた結果は、以下の通り。
朝日とNHKでは、2014年から反対が増加して賛成とほぼ拮抗する傾向になっている。安倍政権の発足と集団的自衛権の憲法解釈変更や安保法制の論議などに世論が敏感に反応し、戦争放棄を定めた9条などの改正に慎重になっていることがうかがえる。
朝日新聞社の2015年3月の世論調査(郵送)では、「変える必要はない」が48%で、「変える必要がある」43%を上回った。2014年に「変える必要がある」が大きく減少して「必要はない」を下回り、2015年もほぼ同様の傾向となった。
NHKは4月17日から19日まで、RDDによる電話世論調査を実施。憲法を「改正する必要があると思う」28%、「改正する必要はないと思う25%、「どちらともいえない」43%だった。2013年までは「改正する必要がある」が「必要はない」を大きく上回っていたが、2014年からほぼ同数になったという。
産経新聞とFNNが4月25、26の両日に実施した調査では、賛成40.8%に対し反対が47.8%。
共同通信社が4月29、30日の両日に電話世論調査を実施した。東京新聞によると、憲法改正に「賛成」は46.7%、反対は42.3%だった。”
◇安全保障関連
世論調査では、以下の様に、憲法の対象範囲によって、賛否の状況が異なると言う。
“憲法全体の「改正」と9条の「改正」については、はっきり賛否の割合が変わります。 憲法全体を「改正」しますかという質問だと、「改正する必要があると思う」28%、「改正する必要はないと思う」25%で改正が多数だった、上のNHK世論調査でも、憲法9条を改正する必要があると思いますかという質問に対しては、「改正する必要があると思う」が22%、「改正する必要はないと思う」が38%、「どちらともいえない」が34%で、改正反対が賛成の1・7倍くらいになります。”
これは極めて重要なことで、憲法9条を巡る扱いが、憲法改正のポイントであることを示しており、今回の安保法案問題の核心でもある。
“こういう憲法「改正」の世論調査で食わせ物なのは、
「環境権の新設など」
とか質問に入れていたりするんですよ。―――”
ということで、賛成に誘導する、世論操作もあるようだ。
○各国での憲法改正
◇概況
国家の基本となる憲法でも、時が経つにつれて、時代に合わなくなって来るのは当然のことで、それに応じて、憲法を変えることは、どの国でも行っていることだ。
身近な例では、今年、アイルランドで、同姓婚の是非に関し国民投票を実施し、その結果から、憲法改正を行った様子を、当ブログの下記記事で取り上げている。
選挙と住民投票 (2015/6/2)
後述する自民党のサイトには、下図が出ており、憲法改正を一度も行っていないのは、日本だけだとして、改正の必要性の論拠にしたい意図のようだ。
◇ドイツの場合
前述のように、何と59回と、飛び抜けて改憲回数が多いドイツだが、日本同様敗戦国であり、ナチの元凶であり、東西統一も実現したドイツでは、戦後処理が大変だったからだろうかと推測されるところだ。
この辺の様子について、日本の国会議員団が、以前、2001年に現地を訪問し、調査した報告書があり、その事が、Huffington Post紙に出ていて、内容の一部が、このネットに引用されている。
詳細は省略するが、ドイツの憲法にあたる、ドイツ基本法は、前文と11章146条からなっているようだ。
記事の一部を、以下に引用させて貰う。(憲法改正、ドイツ58回なのに日本は0回 これっておかしい?【争点:憲法改正】
“第二次世界大戦でのナチス・ドイツによる侵略戦争の反省から、第1条で「人間の尊厳の不可侵」を、第20条で「ドイツは国民に主権がある民主国家である」ことを掲げている。この二つの条文についての法改正は一切認めていないが、それ以外の基本法については58回改正されている。”
これに拠れば、ドイツの憲法は、一切改正しないとしている、二つの根幹条項と、それ以外の一般条項からなっていて、58回も改正されたのは、後者で、技術的な事項が多いということのようだ。
今般の大戦で、ドイツは、自ら犯した、人間の尊厳に対する罪(ユダヤ人虐殺、ホロコースト)の大反省から、人間の尊厳の不可侵を謳っている。でも、周辺国への侵略も行ったが、戦争や戦力については否定しなかった。
対して、日本は、朝鮮半島や中国等への侵略を行った反省から、戦争の放棄を謳っていると言える。
日独両国で、戦争や戦力についての扱いが異なった理由や経緯については、専門家に任せる領域だろうか。
言う迄もなく当然のことだが、改正回数ではなく、肝心なのは、改正内容ということだ。
○改憲手続き
日本国憲法96条には、以下のような、改憲の手続きの規定がある。
第9章 改正
〔憲法改正の発議、国民投票及び公布〕
第96条この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
このように、改正する憲法案の発議は、両院それぞれ、2/3以上の賛成を得て、国会が行うと規定されているが、多数決で無く、2/3以上の賛成が必要とあるので、可なりハードルは高い。
一方、改憲案について、国民投票等で、過半数が賛成すれば、改憲が行われる訳だが、この改憲のための「国民投票法」が、5年前に施行され、昨年の法改正で、投票年齢が18歳以上に引き下げられる等、憲法改正の環境は整っていると言える。
これまでは、憲法改正の労を厭い、それを避けて、憲法解釈という迷路に入りながら、安保法案を、数の力で無理やり成立させるという、姑息な方法を取ってきている。
来年の参院選の結果で、両院で2/3以上の発議が可能になれば、自主憲法制定という、自民党にすれば、結党以来の悲願達成のチャンス到来となるのだろうか。
○改正草案
自民党の改正憲法草案が、2013年に公表され、ネットに出ている。(「憲法改正草案」を発表 | コラム | 自民党の活動 | 自由民主党 より)
これによれば、改正憲法の三大原理として、主権在民、平和主義、基本的人権の尊重、を掲げていて、基本は現憲法と同じである。
そして、現憲法の9条の安全保障関連だが、自民党の改正案では、下記のように、同じ9条で、戦争を放棄する平和主義を掲げる中で、自衛権や国防軍を明記し、交戦権の否認を削除している点が、最大のポイントである。
第二章 安全保障
(平和主義)
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
(国防軍)
第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
改正憲法案では、国連憲章で保障されている、国と国民を守るための自衛権を明記し、このために、日本も、“晴れて”国防軍と呼ぶ軍隊を持つこととしている訳だ。
自民党以外の、民主党 公明党 共産党 社会党 維新の党、--------の各政党は、安全保障や軍隊や、憲法改正について、どの様な見解なのだろうか、知りたいところだ。
単なる反対のための反対では答えにはならないが、調査不十分のため、省略する。
いよいよ、次稿以降で、本題である平和主義と国防のあり方、今後の、憲法の姿と日本の進むべき方向、等について、筆者なりに考察してみたい。