2014年2月16日(日) ♪この広い野原いっぱい♪
先月末、たまたま、NHK―TVのBS番組 プレミアムアーカイブス BS永遠の音楽「フォークソング大全集」を見る機会があった。
昔、よく聞いたり歌ったりした、フォークの名曲の数々は、久しぶりに懐かしいものだった。
「バラが咲いた」 (マイク真木)
「白いブランコ」 (ビリーバンバン)
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そんな中、ギターを手にした森山良子が、自身の作曲になる、
「この広い野原いっぱい」
を、歌った映像が出てきた。筆者の好きな歌でもある。
森山良子の、柔らかで澄んだ歌声は、その後の、「涙そうそう」、「さとうきび畑」、などでも、変わっていない。
今回の記事は、この曲についての話題である。
○まず歌詞を見てみよう。
ネットから引用した歌詞は以下である。(この広い野原いっぱい: 二木紘三のうた物語)
この広い野原いっぱい
作詞:小薗江圭子、作曲・唄:森山良子
1この広い野原いっぱい 咲く花を
ひとつ残らず あなたにあげる
赤いリボンの 花束にして
2この広い夜空いっぱい 咲く星を
ひとつ残らず あなたにあげる
虹にかがやく ガラスにつめて
3この広い海いっぱい 咲く船を
ひとつ残らず あなたにあげる
青い帆に イニシャルつけて
4この広い世界中の なにもかも
ひとつ残らず あなたにあげる
だからわたしに 手紙を書いて
手紙を書いて
1 1番は、勿論、最も良く知っている。美しい乙女が、野原で花を摘む光景が彷彿とする。野に咲く花は、何だろう、クローバー? タンポポ? コスモス? ラベンダー?
野原いっぱい咲く花を⇒ 一つ残らずあげる⇒ 赤いリボンの花束にして
と来ると、歌っている自分が、花束を貰うような幸せな気持ちになる。
歌のタイトルにもなっている、1番の歌詞の、広い野原のイメージが、何とも魅力的なのである。いまは、数少なくなった、広々とした野っ原に対する、ノスタルジーかも知れない。
コスモス畑(ネットより)
2 2番も凡そ知っている。夜空に見える星々を、花に譬えるなど、ロマンが溢れる。
夜空いっぱい咲く星を⇒ 一つ残らずあげる⇒ 虹に輝くガラスにつめて
星を詰めた虹色に輝くガラスは、さぞかし、キラキラしているだろうか。
3 3番も聞いたことはある。海に浮かぶヨットをも、咲く花になぞらえたあたりは、素敵だ。
海いっぱい咲く舟を⇒ 一つ残らずあげる ⇒ 青い帆にイニシャルつけて
イニシャルは、R.M.かな?
TV画面に表示される歌詞を見ながら、ここまで歌を聞いて、素直で分りやすい言葉に込められた、作詞者の素晴らしい感性とセンスに、改めて、驚かされた。
空間:野原―夜空−海
対象:咲く花―咲く星―咲く船
色彩:赤―虹―青
アクセント:リボンーガラスーイニシャル (カタカナ)
4 4番の歌詞を、意識的に聞いたのは、たぶん、今回が初めてだろうか。この名曲は、これまで、何度となく聴いているのだがーーー。 歌詞は、遂に、
世界中のなにもかも⇒一つ残らずあげる
となったので、一体どうするのだろうか、結びはどんな言葉になるのだろうか等、と気になり、やや大げさだが、ドキドキした。
今の時代なら、
⇒宇宙(そら)へ旅する ロケットに乗せて
などと続くのだろうか。
○そして、実際の歌は、
⇒だから私に手紙を書いて
だったのだ。 筆者としては、想定外の展開に、大いに驚いたのである!
この歌の主人公は、待っても、待っても手紙が来ない苛立ちから、1〜3番迄の、詩的な気持ちも吹っ飛んでしまい、もう、やけくそになって、何でもあげるから
だから私に手紙を書いて! 手紙を書いて!
と、すっかり現実に戻って懇願している、ということだろうか。
仮想の取引ながらも、手紙を貰った代わりに、世界中をあげるから、とまで言わざるを得なかった、切ない女心が、現れているだろうか。
なんで自分から手紙を書かないのだろうか、という素朴な疑問も湧くのだが、女性の心の機微を知らない野暮ったれ、と揶揄されそうだ。
一方逆に、ポジティブに、これ程までに、あなたを慕っている、恋しているという、最大級の告白のメッセージ、と受け取ってもいいかも知れない。
いずれにしても、歌の主題は、この4番にあると言えるだろうか?
この歌詞は、日本郵政にとっては、素晴らしいコマソンになれるのではないか。今や、電話や電子メールなどに押されて、手紙(恋文、玉章)の存在価値は、一頃よりは、大幅に低下しているとは言え、心を伝える重要な手段ではあろう。
○この曲のメロディーについての簡単な印象だが、まず、音域的には、誰でも無理なく歌えるだろうか。
一方、出だしを含め、随所で、小節の頭に休符がくるシンコペーションがあったり、スキップするような音符の流れなど、抒情歌ながらリズミカルである。
手持ちの「日本のスタンダード・フォーク集」(1977年(S52年)版)に載っている楽譜は、C長調だが、コードとしては、以下のように、効果的に、マイナーコードEm、Fmも合う曲調も、印象的だ。
このひろいのはらいっぱい さくはなを
C Em F G7
ひとつのこらず あなたにあげる
C Em F G7
あかいリボンの はなたばにして
F Fm C G7 C
又、ネットには、調の異なる、下記の、E長調のコードも載っているが、ほぼ、同様だ。
E G#m A B7
C Em F B7
A Am E B7 E
○上述のように、ひと時、4番の歌詞には驚いたのだが、暫く経ってみると、失礼な言い方だが、落語の「落ち」を聞くような、爽やかさがあり、人心の機微に触れた作詞者の感性を思ったことである。ネット情報では、この曲の作詞者の小薗江圭子さんは、一昨年に天寿を全うされたようだ。
この曲、1974年(S49年)の、NHKみんなの歌にも取り上げられたようで、この歌を紹介するサイトでは、下図のように、原っぱで遊ぶ子供たちの姿が出ている。 やはり、歌のタイトルにもなっている、1番の歌詞のイメージである。 (NHK みんなのうた - この広い野原いっぱい - 森山良子)
又この曲は、学校の音楽の教科書にも載ったという。上述の、1〜3番と4番の歌詞と「落ち」について、学校ではどう教えるのか、多少、興味があるところだがーーーー。
ゆったりした中にもリズミカルに気持ち良く歌える歌、往年、一世を風靡し、今も歌われる抒情溢れるこの名曲を、大事にしていきたいものである。