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世界遺産:登録後に維持する問題 1

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2017年10月11日(水) 世界遺産:登録後に維持する問題 1

 

 

 この夏に世界遺産に登録された、「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群 について、当ブログの下記記事、

         世界遺産:宗像・沖ノ島が登録 (2017/10/5)

で取り上げたところだ。

 

 本稿は、世界遺産登録後の、維持管理に関する問題を話題にしているが、これは、先日、10月4日朝のNHK―TVの7時のニュースの中、けさのクローズアップで、 世界遺産について、

    イ.富岡製糸場の訪問客が大幅に減っていること

    ロ.ドイツのドレスデンの登録遺産が抹消されていること

    ハ.オーストリアの登録遺産が、地域との係争問題で危機遺産になったこと 

について、報道されたのが切っ掛けになっている。

 

 世界遺産の保護・保全に関しては、先に、当ブログの下記記事

    世界遺産の保護・保全 (2015/8/11)

で話題にしているが、その続編として、今回と次回の2回に分けて取り上げたい。

 

イ 富岡製糸場の例

 3年前に、富岡製糸場が登録された時には、当ブログに、

    ・富岡製糸場と絹産業遺産群 1、2 (2014/6/22~25)

    ・糸の太さに関する話題  1、2  (2014/6/28~30)

を投稿している。

 先日のNHKのニュースによれば、富岡製糸場の入場者数が、下図のように、かなり減少してきているようだ。(けさのクローズアップ|NHKニュース おはよう日本

  

 その理由として、

    ・当初の物珍しさが無くなってきたこと

に加え、

   ・見学できる施設が少なく、立ち入り禁止の未整備な施設が多いこと 

   ・機械類を動かすなどして、実体感できる場が少ないこと

等が挙げられている。

 遺産を管理・展示する側の富岡市当局としても、資産の活用で観光客の増加を図るのに躍起で、一部をホテルに改装する案などもあるようだが、

   ・改修を行うには、多くの規制があり、大変な金と時間が掛かる、

と、地元の財政力や、人手が足りないことを嘆くばかりだ。 3年経過後にして、登録後の遺産の維持・保全の問題が表面化しているのは、想定通りともいえようか。

 

 全国で、既に21もある世界遺産それぞれに、維持・保全上の特有の問題や悩みがあるだろう。登録以前から、観光地等として人気の高かった施設や地域(奈良・京都の宗教関連など)では問題は少ないだろうが、世界遺産になって、名を知られ、覚えられた所(富岡の産業遺産など)は、かなり深刻だろうか。

筆者の思い付きだが、以下のような方向が考えられようか。

  ・政府や行政の援助、篤志家の寄付などに工夫の余地は無いだろうか? 

  ・民間の力やボランティアの力を活用できないだろうか?

  ・ネットなどを活用した小口の募金法は? 

  ・見学者が持続するような、魅力アップの方法は無いだろうか?

 又、周知のことだが、自然遺産の場合は、本来の自然の保護と、観光による環境破壊という、本質的ジレンマを抱えている。

 

ロ ドイツ ドレスデンの例

 ドイツ東部(ザクセン州)に位置するドレスデンは、エルベ川流域に栄えた古都(残念ながら未訪問)だが、この付近のエルベ川流域とドレスデンの街並みの文化的景観が、2004年、世界文化遺産(ドレスデンとエルベ川渓谷)に登録されている。

エルベ川は、チェコとポーランドの国境付近にあるステーディ山地に端を発し、チェコの首都プラハを経て、ドイツのドレスデンを通り、北海に面したハンブルクに達するもので、ライン川、ドナウ川とともに、良く知られた、国際河川である。

 因みに、ドイツでは、水運の動脈であるこのライン川流域が、歴史的施設と美しい自然風景が調和した文化遺産(「ライン渓谷中流上部」)として登録されている。

 

 ドレスデン市のエルベ川の南部は、歴史のある旧市街で、反対の北部は、新市街となっているようで、エルベ川にかかる橋が少ないことから、長年、慢性的な交通渋滞となっていて、両岸を結ぶ、長大な橋(バルトシュレスヒェン橋)を掛ける計画は、世界遺産登録以前からあったようだ。

いろんな駆け引きがあったようだが、登録翌年に橋の建設が具体化し、世界遺産か地元の利便化か、をめぐって、2005年に住民投票が行われた結果、橋の建設を支持する賛成票が多数だったようだ。 

 これに対し、2006年の世界遺産委員会(WHC:World HeritageComittee)は、橋が出来れば景観の価値が損なわれると警告し、危機遺産に指定したようだ。

結局、橋の建設が本決まりとなり、これを受けて、2009年の世界遺産委員会は、危機遺産を廃止し、登録抹消を決めている。 橋自体は、2012年に完工し、2013年から、供用されているようだ。(下図)

    

        開通を祝って橋を渡る住民達(川の対岸側はドレスデン旧市街)(ネット画像)

 

 下図は、ドレスデンの地図で、中央を左右(東西)に流れるのがエルベ川。川の南側が旧市街、北側が、新市街である。既存の橋の状況と、新橋の位置関係が良く分からなかったのだが、苦労して調べて知った下記のサイト

   エルベ川の橋が開通 - ドイツ生活情報満載!ドイツニュースダイジェスト

に的確な情報があり、この情報を基に、市街地図上に示したのが、下図だ。

 下図で、黄○で示したのが既存の5つの橋で、赤○で示しているのが、今回新たに架橋された橋である。

橋は、左から

   マリエン橋

   アウグストス橋

   カローナ橋

    アルバート橋

   バルトシュレスヒェン橋

   ロシュヴィッツ橋

だが、新橋は、既存の橋が無かった中間地点に建設されているのが良くわかる。

                         ドレスデンのエルベ川にかかる橋

   

              ○ ○   ○   ○   ○          ○                ○

 世界遺産の登録抹消の事例はあるが、多くの場合、自然災害や崩落、テロによる破壊など不可抗力に近い理由のようだが、先進国のドイツで、このような事態が生起したのは極めて珍しい事例だろう。

 

地域住民としては、世界遺産が抹消されても、橋の建設は、生活向上や産業発展に欠かせず、背に腹は代えられないとして選択したようだ。現地のタクシー運転手は、登録抹消後も、観光客は減っていないと述べていた。

 テレビでは、ドレスデンの住民感覚としては、世界遺産への登録は、数ある訴求ポイントの一つと、軽く見るふしがあったのは、やや意外であった。

 

反して、日本には、地域おこしのために、世界遺産に登録して、国際的なお墨付きを得たいという「舶来志向」が、いまだに根強くあるだろうか。 でも、結局は、他力本願ではなく、自分達の力で、何とか地域の問題を解決しなければならない、ということだろう。

 

 先のレポートは、現地在住の日本人の建築ジャーナリストが書いたものだ。この中で著者は、新橋の意義について、建設当初は、非難轟々だったパリのエッフェル塔の例を引用し、50年後になって、この橋が周囲と溶け込んだ、素晴らしい景観になっているだろう、と述べているのが印象的。

文化遺産は、古いものを確実に残す一方で、時代とともに工夫を凝らしていく所に意味がある、というのが、世界遺産の核心に迫るポイントに思えるのだがーー。

 

 


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