2017年10月3日(火) 水俣条約の第1回締約国会議
○ 水俣条約
熊本県水俣市の有明海沿岸で発生した水俣病は、わが国での4大公害の中でも、最も知られた大きな公害である。
水俣に代表される水銀公害を、地球上から撲滅すべく、2013年10月、熊本で開催された、国連の環境計画(UNEP)の国際会議(外交会議)で、水俣条約(The Minamata Convention on Mercury)が採択されている。締約国数は129カ国という。 その後、批准数が、既定の50カ国になったことから、今年の8月に、発効した。
条約に、特定の地域名が付くのは珍しいが(ワシントン(USA)条約、ラムサール条約(イラン)など)、水俣の被害を繰り返さないという世界の願いと、発生国である日本の取り組み姿勢が込められており、今後に対する大きな責任がある。
条約の内容については、詳細は省略するが、概略の骨子は下図のようだ。 (ネット画像より)
下図は、世界の水銀汚染を示したものだ。(ネット画像より)
日本等の先進国での、工場排水によるメチル水銀汚染は、今は大幅に減少しているが、手作業で金を取る仕事が盛んな地域(東南アジア、アフリカ南部、南米ブラジルなどの途上国)では、使用する水銀による環境汚染が、今も進んでいるようで、水俣条約でも、廃絶のための行動を訴えている。
そして、この9月、この条約の第一回締約国会議(COP1)がジューネーブで開催され、今も水俣病に苦しむ坂本しのぶさん(母親の胎内で罹患)が、
「水俣病は絶対に終わっておりません。患者の気持ちになってやって下さい。公害を起こさないで下さい。女の人と子どもを守って下さい。」
などと切々と訴えた様子が、9月28日のニュースで報道され、深く印象に残ったが、水俣条約が抱える現状の問題を、再認識させられた次第。(「水俣病は絶対に終わっておりません」 坂本さんが訴え )
○ 4大公害
周知のことだが、国内の4大公害を簡単に整理すると以下のようだ。
水俣病 新潟水俣病 イタイイタイ病 四日市ぜんそく
場所 熊本水俣市 新潟県 富山県 四日市市*
不知火海沿岸 阿賀野川流域 神通川流域
時期 1959年 1965年 1968年 1967年
(国1968年)
原因 化学工場排水 化学工場排水 精錬所排水 工場排煙
水質汚染 水質汚染 水質汚染 大気汚染
(メチル水銀) (メチル水銀) (カドミウム) (二酸化硫黄)
(四大公害の比較 等 参照)
*昭和38(1963)年、筆者は、就職間もない訓練研修で、鈴鹿にある学園寮で過ごしたが、ほど近い四日市には時々遊びに出かけた。四日市コンビナートの沢山の煙突から、もくもくと煙が出ていたのを思い出す。
4大公害には含まれないが、1968年頃のカネミ油症事件も大きな公害だろう。
米ぬか油の製造工程で使った脱臭剤のPCB(ポリ塩化ビフェニル)が、製品中に混入した事が原因と言う。 この油を利用した多くの人たちが罹患した。
その後、本当の原因物質は、PCB中に微量に含まれていた、ダイオキシンと判明したようだ。このダイオキシンは、ゴミの焼却等でも発生することから、焼却炉を高温化するなどの対策が進められた。
公害に対する対策を通して、公害を出さないための日本の各種技術が、大幅に進むとともに、裁判等を通して、患者への補償も行われている。
これ等の公害事件は、大方、解決していると言えるようだが、有明海の沿岸には、最終処分場が決まらないことから、問題の汚染廃棄物が、いまだにそのまま残されている、というのは驚きである。
○ 毒物の重金属など
地球上の金属類は、便宜的に、比重によって、分けられる。
重金属 比重4~5以上 鉛 カドミウム 水銀 銅など
軽金属 〃 〃 以下 アルミニウム チタン など
重金属には、人体に有害なものもあり、前述の水銀とカドミウムの他には、鉛などもある。
・水銀 Hg(ラテン語 hydrargyrumから)
産出 自然水銀(常温で液体)と辰砂(HgS)として採掘
用途 体温計などで御馴染
小規模な金の精錬に必須
以前は、圧力表示に、水銀柱 ○○mmHgなどと使われた。
・カドミウム Cd(英語 cadmiumから)
産出 亜鉛と同時に産出
用途 電気メッキ 電池 塗料
・鉛 Pb(ラテン語 plumbumから)
用途 鉛は、以下のように、身近でも多方面に利用されてきたが、
釣り用具
ケーブル被覆や接続部の鉛工
化粧品 等
人体への害毒問題で忌避されるようになり、脱鉛化や他への置換が進んでいる。
・銅 Cu (ラテン語 cuprum から)
重金属の銅自体は、銅鍋、おでん鍋などに見られるように、有毒金属ではないが、明治時代、足尾銅山で、銅の精錬で発生する鉱毒が周辺を汚染し、足尾鉱毒事件として大問題になり、閉山に追い込まれている。
・PCB
金属ではないが、化合物であるPCB(ポリ塩化ビフェニル)も厄介な有毒物質だ。日本では、前述のように、カネミ油症事件の原因物質として大きな話題となったが、その後、この事件の主要害毒成分は、ダイオキシンとされている。
現在は、PCBの管理は厳しく行われているが、以前関係していた工場に、PCB入りの変圧器が多数保管されていて、処置に手を焼いていたことを思い出す。
人体内に入った毒物を無害化することを、解毒(デトックス )と言うようだが、そう簡単な事ではないだろう。
detoxification⇒detox
人体内に入った毒物によって引き起こされる症状は、多くの場合、後遺症として、生涯、残ることとなる。
食品である農作物中の残留農薬や、身辺の微生物・ウイルス類、放射性物質からの放射線、などなど、われわれは、常に無数の害毒の中で生きているとも言え、気にしていたらきりが無いとも言える。勿論、気にするかしないかは、個人差は大きいのだが、日々の生活では、人体の抵抗力や免疫力を信じて生きていくことだろうか。