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Brexit  3

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2016年7月17日(日)  Brexit  3

 

 先月23日に、イギリスで、EUとの関係を問う国民投票が行われ、離脱派が過半数を占める結果となったことについては、下記記事

    Brexit  1  (2016/7/2)

でとりあげた。

 その後の、世界の大幅な株価下落等の経済状況と、イギリス国内での、後継の保守党党首(首相)選びについては、   

    Brexit  2  (2016/7/9)

で、話題にしてきたところだ。

 

 最近、この党首選で変化があり、9/9と言われていた予定が繰り上がって、新党首・新首相が、先日の7/13に決まったようだ。 

いずれにしても、当面のイギリス国内の動勢と、イギリスとEUとの関係の動きに、目が離せない状況であり、これらについて、大略取り上げることとしたい。

 

 ○ 新党首・新首相の誕生  

 保守党党首選の候補者が、2人に絞られ、本命はメイ氏と言われる状況で、党員選挙に向けて全国遊説に入り、9/9迄に新党首が決定され、それを受けて新首相が任命される、というのが段取りであった。(前稿まで)

それが、対立候補のレッドソム氏が、突然、党首選から辞退することとなったようだ。

 情報では、レッドソム氏は、英有力紙の取材で、国の将来について、「母親だからこそ、この国の未来について真剣に考えられる」と述べたという。一方、党首選の決選投票で対決するメイ氏には子供がおらず、長年連れ添う夫と不妊治療のために専門家を訪れたことがある、と英大衆紙に明かしたばかりだったという。保守党議員らからは「子供のいない男女に対する侮辱だ」などと、レッドソム氏への批判が噴出したという。

    (「母親だからこそ真剣に…」イギリスの次期首相候補の発言が物議 - ライブドアニュース))

 元々、先行した国会議員による投票では、劣勢だったのだが、自らの心無い発言で、レッドソム氏は、立候補を辞退する羽目になったようだ。

 

 メイ氏が、13日に女王から首相に任命されたニュースが、日本では、翌朝、流れた所だ。

メイ首相は、就任後初の首相官邸前でのスピーチで、以下の様に述べたようだ。(イギリス2人目女性首相誕生。メイ首相新内閣にはボリス=ジョンソン氏を外相に任命 等より引用)

      初スピーチ

 “先の国民投票での欧州連合(EU)離脱決定を受け、国としての新たな役割を構築していくと言明。「国民投票を経て、われわれは未曾有(みぞう)の変化の時を迎えている」と語った。

 その上で「グレート・ブリテンだからこそ、われわれは困難に立ち向かっていける。EUを離脱し、国際社会において大胆かつ新しい、前向きな役割を築いていこう」と訴えた。

 メイ首相は演説で、国民の多くが「激しい不公平」に苦しんでいると指摘。貧困層の平均余命がより短いことや、アフリカ系国民に対してより厳格な刑事司法制度、男女の賃金格差、若年層の住宅購入が困難になっている状況などを挙げ、「わたしが率いる政権は一握りの特権階級ではなく、国民の利益によって動かされるものになる」と述べた。”

 この就任演説で、首相は、イギリスを、グレート・ブリテン(Great Britain)と言い、連合王国(United Kingdom)とは言わなかったようで、やや、気になったが、原文で確認出来てはいない。

 メイ首相は就任後、新内閣の閣僚を発表した。詳細は略すが、主なポイントは以下の様だ。
     財務相にフィリップ=ハモンド氏: 外相から横滑り

     内務相にアンバー=ラッド氏:   気候変動相から横滑り  首相の前ポスト

     外相にはボリス=ジョンソン氏:  前ロンドン市長  

                           離脱派の先頭で次期首相候補⇒党首選不出馬

                           残留派との融和とEU離脱の手続き等を担当

     国防相にマイケル=フォルン氏: 留任 

 「鉄の女」と畏敬された、故サッチャー首相だが、2人目の女性首相となるメイ新首相のニックネームは、「氷の女王」という。キャメロン前首相の下で、内相を6年間も務めた実績で見せた、厳しい手腕を言うのだろうか。イギリス2人目女性首相誕生。メイ首相新内閣にはボリス=ジョンソン氏を外相に任命

 余談:メイ首相が、エリザベス女王から任命書を貰い、首相官邸前で就任演説を行った当日のファッションについて、英タイムズ紙は、以下の様に絶賛したようだ。(メイ英新首相の装い、10点満点 英紙タイムズが絶賛 配色「女王に配慮」 - 産経ニュース

   

 “ほとんどの部分は「重要な問題を抱えた思慮深い指導者にふさわしい」紺色だが、コートの裾の部分は明るい黄色で「楽観主義や生きる喜びさえ感じさせる」と指摘。同じく明るい黄色が好きな女王の影を薄くしないよう配慮していたと分析した。”

 TVで見た筆者にも、上に着けているコートの裾の部分の明るい黄色が、新鮮に感じられたことだが、女王の好みの色にも配慮している、とはさすがである。(上図はネット画像より)

 

 国民投票後、約50日弱の間、イギリス国内の政治は不安定だったが、新たな内閣もスタートして、イギリスの政治は、徐徐に、軌道に乗っていくことだろうか。

9月9日頃と言われていた新党首・新首相の決定が、約2か月弱、繰り上がって早くなった訳で、いいニュースとして市場でも好感され、ポンドも少し回復したようだ。 

 

 メイ首相は、9/16 チェコの首都 ブラチスラバで開催予定の、次回EU首脳会議に出席し、キャメロン前首相から交代した挨拶を行うようだ。

 メイ首相は、就任間もなく、EUを仕切る両首脳である、ドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領と電話会談を行い、EU離脱交渉の準備に時間がかかると伝えて理解を求めたようだ。勿論、公式に、EU離脱を通告するには、国内手続きが必要なため、そちらは、やはり、年明けになるとも言われている。

○ EUとの新たな関係を模索しつつ

 新首相誕生後のイギリス国内では、懸案が山積している。 国民投票で露呈した国内の分断を修復し、今後の方向を見つけ出していくことが当面の課題だろう。

 ◇Brigret 

 国民投票の結果はEU残留になるだろう、と、漠と想定したのか、余り考えずに投票したのか、答えを予測して投票に行かなかったのか、は不明だが、兎も角、もう一度、国民投票をやって欲しい、と言う、請願書の署名が、400万人を超えていると言うのは驚き。

10万人以上の請願がある場合には、扱いを国会で審議するルールという。

 良く考えずに投票してしまったことが、悔やまれる(regret)、という意味だろうか、この動きをもじった、

      Bregret (Br(itain)+(r)egret ブリグレット)

という造語もあるようだ。

 民主主義を標榜するイギリスのこと、将棋の対局での“マッタ”のように、結果を見てから、投票のやり直しをやるとは思えない。

この言葉は、イギリスが、対外的に自らに対する自責の念を表した、自嘲気味のブラックユーモアに見える。 

 

◇国会承認に向けて

 国民投票の結果には、法的拘束力が無いので、国会の承認が不可欠で、それに基づいて、EUに対して、条約からの離脱通告を行うこととなる。

 イギリス議会下院の勢力分布は、2015年の総選挙直後の結果では以下のようで、総数650議席があり、任期は5年となっている。 (2015年イギリス総選挙 - Wikipedia

     政党名          議席数A 得票率    得票率からの議席数B  A/B

     保守党          331  36.9%      239.8              1.38

     労働党          232  30.4%     197.6               1.17

     スコットランド国民党  56     4.7%      30.6                1.83

     その他           31    28.0%

  やや余談になるが、イギリス下院の選挙制度は、完全小選挙区制で、比例代表は無いようだ。上表で、各党の得票率から想定される議席数と、実際に獲得した議席数との間に、可なりの違いがあるようだ。 

    イギリス国会議事堂

  各政党が、EUとの関係について、どの様なスタンスなのかが問題だが、保守党、労働党共に、国会内では、残留派が多かったとも言われるが定かではない。

  一方、スコットラド国民党は、2年前の住民投票で盛り上がって、党勢を拡大している。

スコットランド地域は、イギリスからは独立したいが、EUには残りたいということで、今回の国民投票では、前稿にあるように、EU残留の希望が多かった。

  国民投票の結果、EU離脱となった直後に、スコットランド国民党のスタージョン党首は、早々と、EU本部を訪れて挨拶するという、勇み足をやってのけたという。

 

  保守党内では、前首相ともども、「残留」を主張して来たメイ首相だが、僅差の多数決で決まった、「離脱」という民意は尊重せざるを得ない訳だ。  今 後の数か月間は、イギリス国内の残留流・離脱派間の融和をはかり、意見を調整しながらの、難しい舵取りが求められる。

  EU離脱後についてのイギリスの思惑は、貿易や物の移動等の、EUとの経済的関係は現状をほぼ維持しつつ、移民等の人の交流は出来るだけ制限したい、ということのようだ。勿論、EUへの多額の拠出金は不要となる訳だ。

EU側としては、イギリスの、このような、いいとこ取りの条件は呑める筈もないだろう。EU内には、EUを離脱したい勢力を抱えている国も多い。EUの結束を乱す、EU離脱の第1号となるイギリスに対しては、甘い顔はできないのだ。

 

  次稿では、最も難解なテーマだが、離脱交渉が難航し纏まらない場合も想定しながら、イギリスの今後の方向と、EUの今後の方向について、取り上げる予定である。

 

 


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